第30章 みんなでシェアハウス(ごちゃ混ぜ3年生ズ)後編
「待って、”運命の相手” と ”理想の相手”は厳密には違う」
なおも食い下がるなまえに「うるせぇよ」と暴言を吐く。「だいたい俺はドレイクの方程式は信用してねぇ。宇宙人がいる星が10個しかないはずねぇもん」
「宇宙人じゃないよ、”意思疎通が可能な地球外生命体”だよ」
「同じだろ。地球以外で生きてるやつはみんな宇宙人」
「だな。俺らも外から見れば宇宙人」
理系トークに飽きた大地が立ち上がった。「眠くなったから部屋戻るよ。岩泉、起きてたら8時に起こしてくれ」
「起きてたら、な」
「おやすみ、大地」
「おやすみ」
*
夜が更けていく。
大晦日の夜のように静かで優しい時間の中で、壁に掛かった時計の針の音だけが心地よく鼓膜を揺らす。
「お前、明日何限から?」
岩泉がなまえに尋ねた。
「3限」
「じゃあゆっくりしてられるな」
「うん、でももう眠いや」
いつの間にかコタツに潜って眠ってしまった菅原の頭を撫でながらなまえは欠伸をした。
「俺のベッドでよかったら使っていいぞ。コタツじゃ風邪引くだろ」
「ううん。ここで寝る」
そう言って猫のように丸くなっている菅原から白衣をゆっくり剥ぎとった。シワにならないように畳んで、彼の側に置いておく。
「じゃあ電源切っとくな」
「ありがとう」
ぐらぐらと視界が揺れだしたので菅原の隣に潜り込んだ。4人が寝ているコタツの中は、足を伸ばせそうもないほど狭い。狭いけど、とても暖かい。
「おやすみ」
岩泉の声が閉じた瞼に降ってくる。
おやすみ、と囁くように返して、私がここを好きな理由は、この何気ない応答を愛しているからだろうな、と考えた。
学問に励み、無駄な時間を割いて答えの出ない論じ合いをかます。狭い空間に身を寄せ合って、お酒を飲んで騒ぎあい、雑魚寝をして泥のように眠る。
このなんでもない日々こそが、きっと私の愛なのだ。
そう思って、眠りについた。
END
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