第30章 みんなでシェアハウス(ごちゃ混ぜ3年生ズ)後編
世の中には酔うと笑い上戸になったり泣き上戸になったり、無口になったりお喋りになったりと色々なタイプの人間がいるが菅原の場合は子供返りをする。駄々をこねたり誰かに構って欲しがったり。文字だけで見ると可愛らしいが二十歳を超えた男がすると心底うざったいだけである。潰れて寝てくれたほうがどれだけましか。
「やだやだ!東京に残ってよー。俺独りぼっちなっちゃう!」
「岩泉も黒尾も進学するでしょうが」
「じゃあ理系みんなで一緒に卒業しようよー!オーロラ見に行く!」
「はいはいそうだね見たいね」
酔っ払いの相手ほど面倒なものはない。筋の通らない話には適当に返すに限る、と水を飲みながらなまえは無視を決め込むことにした。座るスペースを確保しようと踏まれてもなお爆睡している3人を端に寄せると、ずれたカーペットの下から何か黒い物体が顔を出した。
「何、これ」
指で摘んで引っ張りだすと、それは片方だけの靴下だった。
「靴下だな」
岩泉がなまえの質問に答える。
「誰のだよ」
大地が笑った。「誰か失くしてる奴がいるんだろ」
「知らなーい」
なまえは顔を顰めて傍らに放り投げた。
床に落ちたソレを見つめながら、0.0000034%、と岩泉が先程の数字を呟いた。
それはイギリスのとある男性が論文で発表した ”理想の彼女と出会う確率”
「それってロンドンだけの話だよね」
なまえが岩泉に言った。
「そう、東京だと何%だろうなーって思ってさ」
「頑張れば計算できるんだろうけど、わざわざ知りたいとも思えないね」
「絶望するだけだもんな」
「………??」
2人の会話についていけない大地が首をかしげた。そんな彼に岩泉が尋ねる。
「お前は運命の相手に出会う確率って、何%だと思う?」
「え?100%だろ」
「100%なの?」
数学科のなまえが眉間にシワを寄せる。
「だって生まれる前から出会うって決まってるから、100%」
大地は照れくさいのか、ぎこちなくはにかんだ。「それが運命ってやつだろ?」
「出た、文系脳」
ロマンで飯が食えるか、と黒尾の口調を真似してなまえが言う。
「俺は結構好きだぞ、その理論」
岩泉が口を挟んだ。「というわけで、俺の答えは『100%の蓋然率』ってことにしとくよ」