第30章 みんなでシェアハウス(ごちゃ混ぜ3年生ズ)後編
ふわふわと暖かい浮遊感の中で目を覚ました。
目の前に黒尾の寝顔があった。いつもの憎たらしさは影を潜め、少年の如く健やかな寝息を漏らす彼の唇になまえは一瞬ここがどこであるか忘れそうになる。アルコールとは恐ろしい。
起き上がろうとしたら腰に4本の腕が絡まっていることに気がついた。2本は黒尾で、もう2本はなまえの背中に顔を寄せて眠っている及川のもの。そしてその及川の背中にはコタツの横でいびきをかいて寝ている木兎の足が乗っている。カオス、と心の中で呟いた。
「ほいよ、」
彼らの腕を解いて上半身を起こしたなまえの前に、透明な液体の入ったグラスが置かれた。「水分補給しろよ。コタツで寝ると脱水症状起きやすいから」
「岩泉、ありがとう」
なまえは掠れた声でそれを受け取り口に含んだ。そして盛大に噴き出した。「日本酒じゃねーか、馬鹿!」
「はは、引っ掛かった」
岩泉がなまえを指さしてケラケラと笑った。その顔にグラスに残った分をぶちまけてやろうかとも考えたが、なにぶん酒には強い体質なので理性がそれを食い止める。時計を見ると夜中の3時半。コタツに座っているのは岩泉となまえ、そして大地だけだった。
「大地、寝ないの?」
「眠くならなくてさ。どうせ明日の授業は午前中だけだし、このまま起きてるよ」
こいつのこと連れていかなきゃいけないしな、と言った岩泉の背後を見ると、彼の身体に隠れて結局無理矢理飲まされた菅原が上機嫌で抱きついているのが見えた。何故か黒尾の白衣を羽織っている菅原と目が合うと「なまえ、見て!」と元気に飛び付いてくる。
「この白衣俺のより2こ分もサイズでかかったぁ!裾引きずっちゃうぅぅ!!」
「はいはいそうだねよかったね。その持ち主はいま君の下敷きになってるよ」
棒読みで返して菅原の腕から逃れようと立ち上がってキッチンへ向かう。「なまえ〜」と追いかけてくる彼に踏まれて、「ぎゃ!」「ぐえ!」と及川と木兎から声があがった。
「ねえなまえ、なまえも院に行こうよ。一緒に卒業しようよー。医学科だけ6年制なんておかしいよぉ」
「だから、私は学部で卒業して地元で公務員なるの。何回その話するのよ」
抱きついてくる菅原を邪険に扱いながらなまえはグラスに水を注いだ。