第30章 みんなでシェアハウス(ごちゃ混ぜ3年生ズ)後編
「ふふっ」
玄関から出て行く木兎と黒尾の背中をキッチンから見送って、なまえが1人で笑い出した。
「包丁持ちながら笑うなよな。こわいぞ」
菅原が彼女から一歩離れる。
「だってご飯のことになると急に団結するんだもん」
白菜を切る小気味い音に混じって「私、この雑多な雰囲気大好き」と本音が漏れる。
「無法地帯だけどな」
「うん。そこも含めて好き」
「1つ屋根の下、ってやつか」
ピッ、と炊飯器のボタンを押して岩泉が言った。
「同じ釜の飯を食う仲間っていいよねぇ」
「そう言う及川は何も働いてないじゃない」
「俺はこの場にいるだけでみんなを幸せにする働きがあるから」
「ねぇよ」
「ないない」
「確かに、ないな」
ひっどいな!と憤慨する及川に笑ってから、なまえは、あ、と思い出した。
「ねえ、大地にはまだ聞いてないね」
「なんだ?」
カセットコンロをコタツの上に設置して、大地が尋ねた。
「愛とは何か」
なまえはにっこり笑ってコンロの上に水の張った鍋を乗せる。「みんなで話してたの。大地の考える”愛”って何?」
「俺の?そうだなぁ」
火を灯してから、大地は笑みを零した。「『日本国憲法第9条』かな」
「さすが、法学部法律学科」
岩泉が口笛を吹きながら野菜を鍋に放り込む。
「深イイ〜」
及川も自分で自分を抱きしめて茶化す。
「やめろ、恥ずかしいだろ」
「ふふ、でも私はすごく大地らしいと思うよ。みんなのことを考える大地っぽい」
「そりゃどうも」