第30章 みんなでシェアハウス(ごちゃ混ぜ3年生ズ)後編
「0.0000034%」
岩泉は頭の中にあった数字を声に出した。
「は?」
間抜けな声を出した及川の隣で、「ドレイクの方程式!」となまえが目を輝かせた。直後、上から雪崩のような音が聞こえ、その場にいた4人が一斉に天井の隅を仰ぐ。
「だー!もう!!!」
木兎の声だ。
「うるせーなあいつ」
黒尾が呟いた。
「角部屋にしてほんと正解だった」
及川も同意する。
「隣の部屋の俺の身にもなってくれ」
岩泉が低い声を出した。「朝も夜もうるっせぇんだ。独り言多くて」
「もー、どこだよお!!」
脱衣所のほうから菅原が戻ってきた。少し苛立っている様子の彼は、なまえと目が合うと「おい!」と呼びかけた。先ほどまで勉強に夢中だった彼女はきっと俺が何を探してるかすら知らない。そう思ったからだ。
「俺の白衣、知らない?」
「あ、この前ゼミの余興で借りた」
予想通りなまえはさらりと答えた。菅原は「なんだよそれ!?勝手に借りるなよな!」と言いながらも犯人を見つけた喜びを隠しきれていない。
「私ちゃんと許可とったよ。菅原が泥酔してたときに」
「コイツが酔ってるときに聞くのはズルい」
岩泉がなまえに言った。「ってか、白衣着てなにしたんだ?」
「医療モノのドラマパロディしたの。みんなで踊った」
「数学科って変人多いイメージだけど、意外にアクティブなのな」
「変人は多いよ。飲み会は普通に盛り上がるけど」
「n杯飲めてー?」とニヤけ顔の黒尾に「(n+1)杯飲めないわけがなーい」となまえも反射的に返す。
「なにそれ」及川が尋ねた。
「帰納法コールだけど。イッキ飲みの」
「キモっ理系キモっ!!」
「それはいいから白衣返せよ。なまえの部屋か?」
「いや、お酒こぼしちゃったからクリーニング出してる。明日の夕方引取りで」
「……それじゃあ授業に間に合わないんだけど」
「じゃあ俺の貸してやるよ」
黒尾が菅原の肩を叩いた。
「いいの?ありがとう!」
「あとで俺の部屋来いな。深夜に」
悪い笑みを浮かべる黒尾。対して「うん、わかった!」と天使のように無邪気な笑顔を返した菅原に「気を付けろよ」「ご愁傷様」「俺の部屋にも今度来てよ」と口々にみんなが声をかけた。心の中で。