第29章 みんなでシェアハウス(ごちゃ混ぜ3年生ズ)前編
「愛とは!」
バン、とコタツテーブルに両手を置いて高らかに及川が言った。「『尊敬の上に成り立つ支配と従属』である!」
「いや、意味わかんねぇよ。なんだよその哲学」
黒尾が野次を飛ばす。「愛っつーのは『子孫を残すための本能』だろ。普通に考えて」
「そんなのロマンチックじゃないやい!」
「だってそうだろ。惚れるもヤるのもDNAに刻まれた本能だ」
「これだから理系人間は!」
だからモテないんだ、と経営学部経営学科の及川徹。
「黙れ文系脳」
精神論で飯が食えるか、と理学部分子生物学科の黒尾鉄朗。
「ご飯は食べれなくても、俺は女の子を落とせる」
「うるせー。反論できねぇじゃねぇか」
「まあまあ」
なまえがテキストをめくりながら宥めた。「不毛な言い争いはやめなよ」
「そういうなまえちゃんはどう思う?」
隣に座る及川がなまえの腕を握った。
「え?」
「愛とは、何だ?」
向かいの黒尾も顔を近付ける。
「そうねぇ」
なまえはスマホにイヤホンを挿しながら考えた。「……『48と75』」
「「…………??」」
2桁の2つの数字に、男子2人が沈黙する。
「なにそれ」
謎の数字に、及川も神妙な顔つきになる。
「異なる2つの自然数の組で、1と自分自身を除いた約数の和が、互いに他方と等しくなるような数」
なまえはイヤホンを耳に入れて再生ボタンを押した。「『婚約数』って言うの。だからもう勉強の邪魔しないで」
そう言って問題に取りかかりはじめた彼女に、及川と黒尾は黙って顔を見合わせた。理系であり何処かしらロマンチックな回答。口を閉すほかない。
その時、沈黙を破るようにドタドタと階段を駆け下りる足音が降ってきた。