第29章 みんなでシェアハウス(ごちゃ混ぜ3年生ズ)前編
「お邪魔しまーす」
玄関のドアを開けると、リビングのコタツで向き合うように座っていた及川徹と黒尾鉄朗がキッと睨みつけてきた。
「帰れ、なまえ」
無愛想に言う黒尾の声に被せて「なまえちゃん、悪いけど今遊んでる暇ないの」と及川が言う。
「なあに?2人ともまた喧嘩?」
慣れた扱いになまえは笑いながら首元のマフラーを緩めた。「大地は?」
「「バイト」」
2人の声が揃って、ムッ!と睨み合う。
「そうかぁ。いないのか。残念」
なまえは靴を脱いで、抱えていた紙袋から一升瓶を取り出した。「帰省したから地酒買ってきたのにな」
その言葉に黒尾と及川がバッと振り向く。
「そんな!だったら早く言えばよかったのに!」
どうぞどうぞ、とゲンキンな及川がコタツの端に寄る。お邪魔しまーす、とそこに座れば、お邪魔してくださーい、と無駄に爽やかな笑顔で黒尾が返した。その嫌味は無視して、なまえはリュックからノートとテキストを引っ張りだす。
「こんな散らかったうるせぇとこで集中できるって、相変わらずなまえはすごいな」感心したように黒尾が言う。
「そう?落ち着くんだよねー、ここ」
「なまえちゃんの部屋のほうが落ち着くけどねー。俺は」
「はいはい」
なまえは及川を適当にあしらってシャーペンをカチカチと鳴らした。「で?今度は何で揉めてたの?」
2人の顔が再び険しくなる。
「徹がわけわかんねぇことを言うのが悪い」
「いーや、黒尾ちゃんが現実的すぎるのが悪い」
「なんの話?」
「「愛とは何か」」
及川と黒尾の声が重なる。本当は息ぴったりなのではないか、となまえは思うのだけれど、口には出さないでおく。