第28章 星は燃えているか(東峰旭)
「東峰くん、絶対後悔するよ。つまらないプライドなんかぶっ壊して、体育館行けばよかったって。素直に行けばよかったって。絶対後悔するから。死んでからじゃ遅いんだよ」
「………でも、」
「好きなことを続けることは地獄です。業の道です。好きなものが増える度に、動けなくなっていく。好きに溺れる度に苦しくなっていく。だけど、足を止めちゃいけない。苦しくても、辛くても、心が止められないなら、足も止めちゃいけない。東峰くん、あなたはバレーボールが好き?」
『まだバレーが好きかもしれないなら、戻ってくる理由は十分だ』
なまえの声に、大地の声が重なった。
ハッとして見ると、彼女の顔がすぐ近くにあった。
「バレーは好き?チームのみんなは好き?私はピアノが好きよ。あなたは?」
「…………」
「…………」
「…………俺は、「ストップ」」
彼女の右手が俺の口を塞いだ。
「言わなくてもいいよ。その代わり、下らない劣等感は捨てなさい」
窓の外の太陽がもうすぐ地平線に届くところだった。なまえはピアノに蓋をして、鞄を肩にかけた。
「じゃあね。さよなら」
そう言って駆け足で去って行ってしまった。
「………なんだったんだ、あの子」
呟いた自分の声に、返事はなかった。
音楽室を出て、今自分の身に起こったことをぼんやりと考えていたら、気がついたら外に出ていた。一ヶ月の習慣とは恐ろしいもので、無意識のうちに自宅へと足が動いていた。
『東峰くん、明日死ぬよ』
足が止まった。
信じてるわけじゃない。
でも、もし本当に死んだら。今ここでトラックが突っ込んで来たら。今ここで心臓が止まったら。
俺は納得して成仏できるだろうか。
草の上に座り込んだ。
西日が地平線へと沈んでいくのが見える。
風が吹いた。なまえの言葉を思い出す。1年生の言葉。大地の言葉。
大丈夫だろうか。行っても大丈夫だろうか。
「…………まだバレーが好きかもしれないなら、か」
そんなの、聞かなくてもわかってるはずなのに。