第28章 星は燃えているか(東峰旭)
なまえの側へ行く。近くで見ると、思った以上に美人でどきりとした。
「座って」
またパイプ椅子を指さす。それに従って腰を降ろした。
無言が続いた。
「話してよ」
なまえが言った。「何で部活行かないの?」
「何で俺にそんな興味持つの?」
「いま質問してるのは私」
そう言って背を向けられる。鍵盤の上に両手を置いて、じっと固まる彼女の背中。
「初めて会った人に話すようなことじゃない」
「初めて会った人だからこそ、素直に話せるんじゃないの?」
「………」
否定できなかった。本当のところ、誰でもいいから話を聞いてくれる人が欲しかったから。
しばらく黙ったあと、ゆっくり喋り出した。
「………俺は、バレー部なんだけど、ウィングスパイカーっていうポジションで、チームの中ではエースみたいな位置にいたんだ」
ピアノが鳴り始めた。顔を上げると、なまえが演奏している。
「続けて」と彼女が言う。
「………俺はスパイクを打って点を取るんだけど、たくさん点を取れるからエースって言われてた。けど、先月、伊達工と試合して………ごめん、その曲、なに?」
「即興だけど」
なまえはけろりと答えた。「東峰くんの気持ちを表現しております」
「話しづらいんだけど」
「気にしないで」
「…………」
俺は渋々話を続けた。
伊達工との試合で、何度も何度もスパイクを打って、尽く止められたこと。
最後の最後、トスを呼ぶのが怖くなったこと。
シャットアウトされて、自分のスパイクが決まるイメージが持てなくなってしまったこと。
それが原因で、部活を休んだこと。
それから、酷いことを言ってしまって喧嘩をしたこと。
俺のせいで西谷が謹慎処分になったこと。
俺のせいで菅原が責任を感じてしまっていること。
みんなに合わせる顔がなくて、部活にいけなくなってしまったこと。
全部話した。その間もなまえはピアノを弾いていた。
聞いているのかいないのかわからなかったが、俺が話し終わると、ぽうん、と和音を弾いて手を止めた。
「それはつまり、スランプってやつですね?」
少しの沈黙のあとの楽しそうな声に、俺は項垂れた。そんな簡単な言葉で片付けちゃいけない。これはもっと深刻な問題なんだ。