第28章 星は燃えているか(東峰旭)
「何やってんだろうな、俺」
体育館まで行ったのに、結局部活には行けなかった。家に帰る気にもならず、ふらふらと校舎を彷徨っていた。
教室棟には生徒がたくさんいるから、できるだけ静かなところを求めて特別棟を練り歩く。
静寂に耐えられずにイヤホンをつけた。再生ボタンを押すと、3人組のバンドが励ましてくる。
天才なんかこの世にいない、って。挫けたら、また立ち上がればいいだけだ、って。
それでも、俺はまだ部活には行けないでいる。
自分の靴先の緑を眺めながら歩いた。思い切り壁を蹴飛ばせば何か楽になるのだろうか。
それは2番のサビに入った時だった。
ボーカルの声に重なって、聞き慣れない音が混じってきた。
「………?」
ドラムと少しテンポがズレたそのメロディーに、眉を潜めてイヤホンを片耳だけ外す。
ピアノの音だ。
誰かがピアノで同じ曲を弾いている。
再生停止ボタンを押して、音のする方へ歩いた。
音の震源地は、第1音楽室。
開け放たれた扉から中を覗くと、1人の女子生徒がピアノを弾いていた。窓から差し込む日差しの中で、弾む両手と横顔。
やっぱり、俺が聞いていたのと同じ曲だ。
天才なんかこの世にいない、って。挫けたら、また立ち上がればいいだけだ、って。
なんとなく、彼女にも励まされているような気がした。
やがて曲が終わり、演奏が止まった。
行儀よく両手を膝の上に置いた彼女の横顔に、見とれてしまっていたことに気が付く。
やばい!!
慌てて後ろを向いた。
「拍手くらいしてったら?」
ドキッとした。
振り向くと、ツンと澄ました子がこちらを見ている。
「ごめん、」
俺はバツが悪くなって、入り口に突っ立ったままで返した。「知ってる曲だったから、つい」
「上手く弾けてた?」彼女が聞いた。
「う、うん」
「そう、よかった」
彼女は嬉しそうな顔もせずに、目の前の楽譜をペラペラと振った。「軽音部に頼まれたの。楽譜に起こしてくれって。ギターとベースライン。今ちょうど確認作業してたとこ」