第27章 グータッチでご挨拶(澤村大地)※
「握手でいいわけ?」
呆けている私に、澤村が尋ねた。するりと手が離れたかと思うと、指を絡ませて恋人繋ぎをしてきた。
力の込もった指先に、私の胸の奥からも何かが溢れ出てくる。
「ちょちょちょちょ、澤村」
「何」
「私いまときめいてる!」
「そりゃあ、よかった」
澤村は照れたように笑った。「あとは、どんなこと想像してるんだ?全部叶えてやろうか」
「えっ!?」
私は固まってしまった。なんだこの夢。妄想爆発か?けしからん。もっとやれ。
「澤村、いいの?」
「いいよ」
「じゃあ、じゃあ、菅原といちゃついてほしい」
「却下」
やっぱダメか。
「じゃ、汗舐めてもいい?」
「えっ」
今度は澤村が固まった。「なんかいきなり欲望が飛躍したな」
「ごめん。調子ノリました」
これもダメか、と肩を竦めた。大分レベルを下げたつもりだったけれどな。
「私のこと甘やかして、虐めてほしい」
「うーん……曖昧」
「全然叶えてくれないじゃん!」
なんだよ!と文句と言うと、澤村は、ごめん、と頬を掻いた。
「ちょっとびっくりした。もっと難易度低いの頼むよ」
「じゃあ、後ろから抱きつきたい」
「そうそう、そういうわかりやすいやつ」
澤村が笑って椅子から立ち上がった。
「えっ、いいの!?本気?」
私も椅子から立ち上がった。夢でも妄想でも変態と罵られても良い。こうなったら心ゆくまで堪能してやろうではないか。
「いいよ、ほら」
澤村は一番前の列の机と机の間に立って、私に背を向けた。「来いよ」
「澤村って、サイコーに格好いいね」
そう言って距離をとるように後退りする私を見て、澤村はぎょっとしたような顔をした。
「え、ちょっと、何してんの?」
「走って抱きつこうと思って。こう、幼馴染のお転婆女子高生が『おっはよー!』ってやるやつ」
「それはもはやタックルに近いぞ」
「だめ?」
「〜〜〜っ!!!いや、よし!」
来い!と澤村が言った瞬間、私はその背中に飛び付いた。こうして私は念願の彼の腰に腕を絡めることに成功したのでした。めでたしめでたし。
「結構どきどきするな、これ」
澤村の照れたような声が上から降ってくる。
背後から抱きついたまま「私の夢なのに?」と尋ねると「お前、これが夢だと思ってるのか?」と笑われた。失礼な夢だ。