第27章 グータッチでご挨拶(澤村大地)※
「あとは?」
前を向いたまま、澤村が優しい声で囁いた。
「あと?」
「俺にやってほしいこと、ある?」
「……それなら、」
ベルトのように回していた腕を持ち上げて、彼の胸あたりに両手を置いた。「好きって言って欲しい。嘘なら、いらない」
「……わかった」
私の両手に、澤村の大きな手が重なる。
彼の呼吸が伝わってくる。肺に吸い込んだ空気が。心臓の鼓動が。
「好きだよ、みょうじ」
「下の名前がいい」
「お前大分調子ノッてるな!」
「だめ?」
「……俺のことも下の名前で呼んでくれたらいいよ」
「大地、好き」
私はすぐに言った。彼の白いYシャツに顔を埋めて。「好き。大好き。3年になってからずっと大地のこと見てた」
「やばいな、それ。どうしちゃったんだよお前。そんなキャラじゃないだろ」
「そんなことないよ」
むしろこちらのほうが自然体と言える。「そっちこそ、変だよ。いくら私の妄想だからって」
「あのなぁ、」
私の両手がぐい、と左右に開かれた。振り向いて私と向き合った澤村は、私の頬をつねった。
「いい加減目を覚ませ。ここはお前の夢じゃない。現実だ」
「痛い!え、現実……?」
それって、つまり、あれ?そうなの?と繋がらない言葉を吐き出しながら、身体から血の気が引くのを感じた。夢だと思ってたから正直に気持ちを打ち明けたのに。
今日の夜、枕に顔を埋めてじたばたしちゃいそうなほど恥ずかしいこれが、現実!?
「マジで……?」
「マジだ。だからそれも踏まえてよく聞いてくれ」
澤村が私の顔を両手で挟んだ。逃げられないように、まっすぐに頭を固定される。
「好きだ、なまえ。1年の頃からずっと好きだった」
瞬間、走馬燈のように記憶が巡った。
1年の頃というと2年も前のことだ。
私がまだニヤニヤしながら男子バスケ部の先輩と先輩を脳内でくっつけてペロペロしていた時期だ。
その時から澤村は私のことを好きでいてくれていて、私の姿を無意識に探して、遠くから私を見ていた?
真剣に見つめる澤村の瞳を見て、しんと静まり返った教室の中で、開け放たれた窓から吹き込む初夏の風に、私は、私は、
「マジで……?」
うわ言のように呟くことしかできなかった。
END