第27章 グータッチでご挨拶(澤村大地)※
スイッチを入れられたように不意に目が覚めた。いやに静かだ。顔を上げると、教壇も前の席も空っぽになっていた。
「お、やっと起きた」
声がした。隣を見ると澤村が私を見て笑っている。
すごいな、帰りのホームルームも爆睡してたぞ。なんて言う彼に、私は欠伸をしながら固くなった身体を伸ばして尋ねた。
「今、何時?」
「17時半」
「うそん」
言ったものの、まだ眠くてしょうがない。再び机に腕を組んで眠ろうとしたら、おいおい、と身体を揺すられる。
「あと5分……」
「何寝ぼけてんだ?起きろ」
「無理。眠い」
「夜になるぞ」
その言葉にまた顔を上げる。夏至の近い今は夕方にすらなっていない。
「澤村、部活は?」
「休み」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
「だって今月大会って言ってたじゃん」
「昨日他校と練習試合だったから、今日は休息の日だ」
「そんな都合のいい話あるわけない」
「そこは信じろよ」
放課後に好きな人と2人きりだなんて。どこの学園ラブコメだ。教室で1人眠る私の脳内麻薬がとうとう幻覚まで作り上げたか。あぁ、そうか。これは夢なんだ。それだそれだ。そうに違いない。
「みょうじ、いつも俺のこと見てるよな」澤村が言った。
「見てるね」
「いつも何考えてるんだ?」
私の夢なのにそんなこと聞く?
「そりゃあ……」と言いかけて口を噤んだ。澤村を見て何を考えているか、なんて。
甘酸っぱいものからモザイク処理が必要なものまで多種多様過ぎて。どこまでだったら言って許されるのか検討がつかない。
「教えてよ」
言い寄る澤村に、私は「そうだなぁ……」と慎重に言葉を選んだ。
「手を繋ぎたいとか、かな」
「へえ、可愛いこと考えてるんだな」
そう言って澤村は笑った。「いいよ。繋ごうか」
ほら、と差し出される。彼の右手。
私がいつも見ていた、シャーペンになって握られたいと思っていた手。それと澤村の顔を見比べた。
「いいの?」
「いいよ。減るもんじゃないし」
「では、お言葉に甘えて」
私はそっと彼の手を握った。握ってから急に思い出した。繋いだ手のその触れ合った場所を目一杯拡大してみると、分子レベルで結合しているという話。私と彼は今、粒子規模で交わった。手の表面に住まう細菌が ごっそりと移動した。やっべぇ。超興奮する。変態か私は。