第24章 booleanを真にせよ(孤爪研磨)
彼女には磁場がある。
同じ空間にいると、なまえに視線が引き付けられる。じりじりと身体が吸い寄せられる。
まるで磁石のプラスとマイナスみたいに、なまえは俺という強磁性体を引き寄せる性質を持っている。けれど一定以上近づくと、今度はマイナスとマイナスになる。見えない反発力が働いて、それ以上は距離を縮めることができなくなる。だから俺は、いつも少しだけ離れた場所からなまえを観察している。
彼女を観察してわかったことがある。
彼女は1つのことしか集中できない。極端な人間だ。
俺は自分で言うのもなんだけれど、複数のことは同時にこなせる人間だと思っている。
バレーをしながら昨日買ったゲームの攻略を考えても試合に勝てる。
勉強をしながらバレーの試合の反省をしてても問題は正解する。
ゲームをしながらなまえのことを考えてもノーミスクリアできる。
俺が布団に入って眠る時、頭の中を円グラフに表すとしたら、バレー3割、ゲーム3割、勉強1割、その他2割。残り10%はいつもキミが占めてるけど、なんにせよいろいろ詰まってはいる。
だから状況に応じて円グラフの割合を変えるだけでいい。部活の時はバレー7割、その他2割でなまえが1割。ゲームの時はゲーム9割、なまえが1割。器用だなんて思うかもしれないけど、大抵の人間ならそれができる。
けれど出来ない人間も勿論存在する。日向翔陽も多分そのタイプだ。翔陽の頭の中はいつも100%バレーボール。
なまえもそちらの人間。
部活の時は部活だけ。テストの時はテストだけ。
1か0しかない。まるでデジタル信号だ。
今日もピリピリとしているなまえを見て、あぁ、もうすぐ模擬テストだなぁ、なんて呑気に考える。きっと今、彼女の頭の中は数学の公式と英単語で一杯なのだろう。1か0しかない。まるでデジタル人間だ。