第24章 booleanを真にせよ(孤爪研磨)
人間にも慣性の法則は働く。
止まっている物体はその場に留まり続けようとして、動き続けている物体はそのまま動き続けようとするあれだ。
俺にも慣性の法則は働く。
布団に入っているうちはこのまま1日中寝ていたいと思う。
億劫に感じるバレーの練習も、始めてみればいつの間にか没頭していて、もう少しボールに触っていたいと思い始める。
これが慣性の法則だ。人間はいつも同じ状態を保とうとする。
俺も常に同じ状態を保とうとしている。環境が変化するのは苦手だ。
人間にも慣性の法則は働く。
それはキミも例外じゃない。
同じクラスのみょうじなまえは、その法則を意図して使っている傾向がある。
「やる気は始めなければ生まれない」という彼女の名言は、ゲームを除く全ての事象にやる気を示さない俺のために生まれた言葉だ。
彼女にも慣性の法則は働く。
そして彼女はそれを理解している。
だから弓道部のなまえは、大会の1週間ほど前から集中モードに入る。
授業中も、休み時間も、大会のことを考えていて誰が話しかけてもピリピリしているんだ。
その期間はなまえは宿題をやらない。当てられてもわかりませんの一点張り。移動教室も昼休みも、誰とも話さず1人で行動する。
頭の中を弓道でいっぱいにして、他の余計な情報は一切遮断して、頭の中を弓道でいっぱいにして、本番の弓を放つそのほんの僅かな一瞬のためだけに、何日も前から自分の神経を研ぎ澄ます。
それが彼女、みょうじなまえだ。
部活だけじゃない。なまえは何においても同じだ。
大会で好成績を残したその直後に待ち受ける定期テスト。
今度は勉強だけに専念する。
テスト前の休み期間を利用して、弓道のことは全て忘れて空っぽになった頭にひたすら詰め込んでいく。
その集中力と気迫は、そばで見ているこっちが怖くなるくらいだ。
それが彼女、みょうじなまえだ。
どうして俺がそんなに彼女のことに詳しいのかと聞かれれば、答えは簡単。
俺はずっとなまえを見ているからだ。