第23章 野うさぎたちは目を開けて眠る(東峰旭)※
「はい、お疲れさま」
そう言って彼女も床に座った。「次は、交代」
緊張したように向けられた背中。そこにかかる長い黒髪におそるおそる手を触れる。ドライヤーで風を当てると、絹みたいにサラサラで、シャンプーの匂いがいつもよりずっとずっと強く鼻を擽った。可愛い。ほんとに可愛い。彼女に関しては可愛い以外の形容詞が出てこない。
「旭くんの大きな手で頭撫でてもらうとね、きゅんってするんだ」
そういうこといちいち全部言っちゃう彼女が本当に可愛い。言わなくてもわかるよね、察してよね、なんていうことは絶対にない。嬉しいことも嫌なことも全部言ってくれるんだ。良い子だろう?こんな良い子が俺の彼女なんです。
「旭くんの手、大好き。髪を下ろしたところも、格好良くって好き」
そう言われてとうとう我慢できなくなって、後ろから彼女に抱きついた。白い首筋に顔を埋めてぎゅっと腕を回せば、やめて、苦しいよ、なんて焦ったような声がする。 これでも手加減してるほうなんだけどな。もし俺の理性が吹っ飛んで力任せに抱き締めてしまったら、彼女は折れてしまうんじゃないだろうか。 ごめん、と力を緩めれば、こちらを向いて彼女が抱きついてきた。身長が足りないから、胡座をかく俺の前で膝立ちになって、首に手を回して。彼女はいつも俺に全力を出してくるけど、正直言って全然苦しくない。
無言で抱き合ったあと、もう寝ようか、と電気を消してベッドに入る。初めて一緒に布団に入る。すっぽりと腕の中に収まる彼女のサイズ感が堪らなく大好きだ。
「俺、なまえのこと大好き、です」
「私も、旭くんの声、低くて優しくて、だ、だいすき」
小声でぎこちなく言い合って、おでこにキスをした。
「ちゃんとちゅーして」
ほら、こういう可愛いことも言える。
もぞもぞと動いて、俺と頭の高さが同じになるように移動してくれた。
「いつも目線合わないけど、ベッドに入ると旭くんの目が見れるね」
その上、甘え上手で可愛い。彼女がこんなに積極的なのはきっと夜のせいだろう。彼女の頬を撫でて、髪を撫でて、軽く唇にキスをして、それがだんだん深くなる。暗闇と月明かりに思考を奪われて、彼女の上に覆い被さりそうになるけれど、ぺしゃりと潰してしまいそうな気がして慌てて唇を離した。