第23章 野うさぎたちは目を開けて眠る(東峰旭)※
今日はなまえの家に泊まる。
そう考えるだけで部活も頑張れて、にやにやしすぎて大地にうざがられた。本当はもっとみんなに言い触らしたいけど恥ずかしくて話せなくて。なぁ誰かきいておくれよ。最近彼女とどうなの?って。そしたら何でもない振りして答えるんだ。今日泊まりにいくけど、って。そしたらたぶん袋叩きに合うんだろうけど、きっとそれすら幸せに感じるのだろう。
部活帰りに迎えに来てくれた彼女と一緒に買い物をして、俺が持ったかごに彼女が材料を放り込んでいって。練習で疲れてるだろうからと俺に休ませて彼女は慣れない料理をしてくれて。そのエプロン姿がとても可愛くて、写真に撮りたいくらいに可愛くて。でもそんなことしたら嫌がられるんだろうなって思ってカウンターに肘をつきながらずっとずっと彼女のことを見てた。何でもない会話をしながら向き合って食べて、美味しいね、ありがとうって言うと彼女が嬉しそうに照れて。お礼に俺が食器を洗って。あぁ幸せだなって。もしこの子と結婚できたら毎日こんなことできるんだろうなって。友人たちの破局話を聞いても俺たちが別れるなんて全然考えられない。考えるだけでちょっと泣けてしまうくらい、俺は彼女と離れたくない。
明日も部活があるから早く寝たほうがいいと俺に一番風呂を譲ってくれて。あがるとテレビ見て待ってて、と彼女の部屋に通されて。彼女の香りが満ちる部屋で待たされて。ずっとベッドに座ってそわそわとしていた。テレビを点けても内容なんて入ってこない。
「お、お待たせ。遅くなってごめんね!」
彼女は髪をタオルで拭きながら部屋に入ってきた。湯気で火照った顔に薄い青色のパジャマ。可愛いな、なんてぼんやりみていたら、「旭くん、髪の毛くらい乾かしなよ。風邪引いちゃう!」と焦ったように言われた。
ドライヤーを片手にベッドに上がった彼女に、おいで、と言われるがまま前に座れば、頭の位置が高くて届かないだなんて今更な文句を言われる。しょうがなく俺は床に座って彼女はベッドの端に腰掛けた。
暖かい風を当てられて、少しごわつく俺の髪を優しく撫でられる。彼女の全部が柔らかくて優しくて甘くて、あぁ、もう幸せだ、と目を閉じた。ずっと続けばいいのに、なんて考えるけど、入浴後からだいぶ時間が経っていた俺の髪はすぐに乾いてしまった。