第23章 野うさぎたちは目を開けて眠る(東峰旭)※
今日はなまえの家に泊まる。
彼女には東京の大学に通う姉がいて、観光がてら両親がそちらの様子を見に行くらしい。
『あのね、旭くんあのね。今週の土曜日ね、私、家に独りになっちゃうからね、あの...もしよかったらでいいんだけどね、その、』
見た目と中身にギャップがありすぎると笑われる俺と話すときに緊張する人なんて彼女くらいで。しかもこれでも付き合ってもうすぐ半年を迎えるわけで。
『夜とか独りで怖いから、泊まりにきてくれませんか……? ご、ごめん今のやっぱ聞かなかったことにして!!』
顔を真っ赤にしてそう言った彼女は本当に可愛くて。というか本当に自分の恋人なのかと疑いたくなるくらいに可愛くて。
なまえは俺より30cm以上も小さい。並んで立つと彼女の頭のてっぺんは俺の肩まで届かなくて、初めて同じクラスになったときは小動物みたいだなって思った。だから告白されたときは本当にびっくりした。吃りながら、好きです、と言った彼女に俺も酷くテンパってしまい、教室のドアに隠れて見守っていた彼女の友人たちが堪らず噴き出してしまったほどだ。コントかよ!と突っ込まれてタイミングを失った俺がきちんと返事をしたのはそれから1週間も後で、辛抱強く待ってくれていた彼女は、よかった、とだけ言って涙を流してくれた。そんな彼女を見て俺も涙目になってしまったことは秘密だ。
彼女は俺にとって小さすぎて華奢すぎて折れてしまいそうで、でも俺のことを好きでいてくれるってだけで最高に幸せにしてくれる。ねぇ、なんでこんな俺のこと好きになってくれたの?って聞けば背が高くて優しいからって言葉。生まれて始めて両親に感謝した。ねぇ、こんな幸せであとでバチが当たらないかな?ある日突然キミがこの世からいなくなったりしないかな?