第22章 境界線を跨ぐ(西谷夕)
もう一回、と夕が口を開いた。「もう一回、やっていいか?」
「そ、そうだね」
私も反対しなかった。このまま無感動のまま引き下がるわけにはいかない。
私達はまたキスをした。唇を重ねて、離す。
「「???」」
2人で首をかしげた。気持ち良くもなんともない。
「全然思ってたのと違う!なんっっっにも楽しくねぇ!」夕が叫んだ。
「こういうもんなのかな?じゃあなんで皆キスするんだろ!?」
私も混乱した。「いや、きっとなんか間違ってんだよ……ほら、口に力入れすぎなんじゃない?」
「そうか?……いや、どうやって脱力するんだよ」
夕が唇を尖らせて私の肩を掴んだ。
「私もわかんないよ」
自分の指で唇を揉んで、それから合図も無しに2人で唇を合わせた。
ふにゃり、とした感触が伝わる。
「……」
「……」
「柔らかかったね」
「柔らかかったな」
「でもそれだけだね」
「それだけだな」
「……」
「……」
私達にはまだ早かったということか?
いやいやいやいや!!!
私は諦めきれなかった。すぐさまポケットからスマホを取り出して、検索欄に『キス』と打ち込む。魚のキスの説明に混じって検索候補に出てきたそれらしきページを開くと、正しいキスのやり方が書かれたリストがずらりと出てきた。
「……なんか、いろいろ種類があるんだね」
私が呟くと、夕も画面を覗きこんだ。
「……『下唇を舐めて、唇を啄むように』」
言うが早いが、私の顎を持ち上げて唇を親指でなぞった。
「……っ!」
今までとは違うもどかしさが身体に走る。私も夕の頬に手を当てて、同じように唇を撫でてやると、彼も何か感じたようで、吸い込まれるように顔が近付く。
ぺろり、と熱い舌で唇を舐められる。ぞくぞくとした何かが迫り上がってくるのを感じた。唇を優しく咥えられて、探るように自分の舌が口外へと伸びる。
夕の唇にも同じように舌を這わせて啄む。呼吸に混じって彼から掠れた声が漏れた。あぁ、次はましな感想が述べられそうだ、と思って唇を離すと、いきなり後頭部を抑えられて再び口を塞がれた。
「んぅ……!?」
予想外の出来事に酸素を求めて息を吸い込むと、また下唇を舐められて軽く歯を立てられる。ちゅ、と音を立てて離れたかと思えば、また角度を変えて口付けられる。ぬるっとした感触が侵入してきて、私の舌に触れた。