第22章 境界線を跨ぐ(西谷夕)
「なんだ?」
「お前ファーストキスいつだった?」
「俺?まだ!」
うーん、清々しい。
まあコイツは彼女なんていたことないから当たり前か。
「そういうなまえは?」
「まだだけど」
「だよな!」
そこは爽やかな笑顔で同意するところじゃないだろうに。「この歳でまだってさ、やっぱマズイかな?」と尋ねれば、「人と比べて焦ることねぇって!」と返される。お前は少しは焦ろ。
私は見るに耐えない漫画を乱暴に閉じて夕と向き合った。
「でもさ、私たち今年で17だよ?17っつったら青春のピークじゃん?屋上でジャンプとガリガリくんでいいのかって話じゃん?」
そう言うと、夕は不思議そうに首を傾げて、「でも相手がいないならどうしようもねぇじゃん?モテねぇんだからしょうがねぇじゃん?」と私の口調を真似た。
2人の間に沈黙が流れる。
そう、私達は言動が幼い故に異性から恋愛対象として見られない。
そこをお互いに傷付け合って何になるというのだろうか。
かと言って慰め合うのも惨めだから嫌だ。
私は大きく溜息を吐いた。それから、あることを閃いた。
それは本当に気紛れの思いつきだったのだけれど。
「じゃあ、試しにやってみる?」
「は?」
「キス」
「やだ」
即答かよ。
「いいじゃん。この際余り者同士で済ませちゃおうよ。ファーストキス」
「やだ!ぜってーやだ!別に俺焦ってねーし!」
「そんな遠慮しなさんな!きっと良い練習になるよ!」
「ファーストキスに練習も何もないだろ!大体、付き合ってもいない奴とキスはできねぇ!」
「じゃあ付き合おう!今付き合って、キスして、昼休みが終わったら別れれば問題ナシ!」
「大アリだろ!なんでわざわざ自分の経歴に傷を付けなきゃなんねーんだよ!」
「つべこべ言わない!」
私は、はい!と両手を叩いた。「たった今私達恋人どうしになりました!これからよろしく!」
「いやだあああぁぁぁ!付き合うなら俺から告白するんだああぁぁ!!」
「うるせえ!!!」
めんどくせーなこいつ!と私は耳を塞いだ。「夕は考え方が古風なんだよ!だからモテないんだ!」と文句を言えば、彼も「お前もそういうところに気遣えないからモテねぇんだろーが!」と私に人差し指を向けてくる。「男のほうから告白して、女がOKして、そんでキスだろ!」