第21章 ユビサキサクラ講座入門編(及川徹)
「弟じゃないです!甥です!」
叫ぶように訂正する及川を見て、なるほど、と納得した。顔は似ていないが、雰囲気や仕草はなんとなく似ている。あの既視感はこの2人が三親等以内の親戚だったからか。
「徹の言うとおりだったぞ」
猛くんはあっけらかんとして及川に言った。「年上のお姉さんへのナンパは、可愛い子ぶりながらおだて続けるイタリアボーイ式が一番効果的だった」
すぐ捕まった、と言ってなまえにわたあめの先を向けた。
「ちょ…!そういうことは本人に言っちゃだめなんだって!」
「そうなのか?」
青ざめた顔で少年を責める及川を、なまえは冷たい目で見た。
「及川…」
「ちがっ…誤解だよ!」
まるで浮気がバレた亭主のように及川があたふたと首を振った。
「最低だわ、小2にナンパ術伝授するなんて…」
「そんな冷たい目で見ないで!なまえちゃん!」
「なまえちゃん?」
及川となまえの言い争いを交互に見ていた猛が声を上げた。
「ねーちゃん、なまえっていうのか?」
「そうよ」
「へー」猛はじろじろとなまえを見た。
「徹の片想いしてる人って、ねーちゃんだったのか」
「「!!!??」」
その言葉に、なまえは驚いて固まり、及川の顔は真っ赤に染まった。
猛は2人のことは気にしない様子で、「なかなか見る目あるなぁ、徹」なんて呑気に言っている。
「猛!ちょっと黙って!」
口を塞ごうとした及川の手をなまえが咄嗟に掴んだ。「それ、ほんと!?」と猛に尋ねる。
「うん。徹んち行くといっつもなまえちゃんなまえちゃんってうるさいんだ。今日はなまえちゃんが飴くれたとか、今日はキドクムシされて悲しい、とか」
「猛のばか!ばかばかばかばかばか!ほんっとばかお前!」
「及川、子供に当たるのはやめな。猛くん、教えてくれてありがとう」
なまえのお礼に猛は「礼には及びませんよ」と澄まして言った。