第21章 ユビサキサクラ講座入門編(及川徹)
「バレー楽しいよね。ポジションとか、あるの?」
「うーん、まだちゃんと決まってなくって、バレー教室でいろんな技やってる」
「小学生じゃそんなもんか」
「でも、俺はセッターになりたいな」
「セッター!」その言葉になまえも嬉しくなる。「格好いいよねぇ!私、この学校で男子バレー部のマネージャーやってるのよ」
「マネージャー?」
少年は首を捻った。小学生チームには存在しないのだろうか。「マネージャーって言うのはね…」と説明しようとしたところに「お姉さん彼氏いないの!?」と少年が声をあげた。なまえの手の中の付箋を覗きこんでいる。
「俺がなってあげようか?」
「え」
一瞬意味がわからなかったが、すぐにあぁ、と納得して、え!?とまた聞き返した。
「だって彼氏いないんでしょ」
「いないけど…」
「好きな人は?」
「それは…」
「まあいたとしても関係ないケド」
ふふ、と少年が笑った。先ほどまで大人っぽかったのに、いまは小悪魔のように上目遣いでなまえを見ている。何なんだこの子は。末恐ろしい、なんて考えて付箋を貼って教室を出た。その後ろをぴょんぴょん跳ねながらついてくる。
「ね、ね。俺、彼氏にどう?」
「どうかなー」
「はぐらかさないでよ。ツレないなぁ…あっ、わたあめ!」
彼の興味が他に移った。なまえはほっと胸を撫で下ろす。
「わたあめ、食べたい?」
「食べたぁい。お姉さん、俺わたあめ食べたいっ」
なんて腕に絡みつかれて満更でもない気持ちになる。「はいはい、」と笑顔で応じて、模擬店でわたあめを1つ購入した。