第21章 ユビサキサクラ講座入門編(及川徹)
「キミ、ひとりなの?」
ベンチに並んで座りながら、ポテトを摘んでいる隣の少年に尋ねた。彼は一口食べて、うん、と頷いた。
「連れがいたんだけど、ウザいって厄介払いされちゃった。お姉さん、お暇だったら俺と遊んでくれない?」
年齢不相応なその口調に、なまえはパチパチと瞬きをした。
「…キミ、小学生だよね、何年生?」
「2年生!お姉さんは?」
「私?高校3年生だよ」
「じゃあ俺と10歳違いだ」
少年は答えをすでに知っていたかのようにすらりと答えた。その横顔を見て、なんとなく誰かに似てるな、と思った。
「青城に通ってるお兄さんかお姉さんがいるの?」と尋ねると、彼は少し考える素振りを見せた後、「いないよ」と首を振った。
「俺の家、ここの近くだから遊びに来てみただけ」
「そうなんだ」
他人の空似か、と考える。確かに、スラリと伸びた手足や甘えた仕草に既視感があるが、誰に似ている顔、とは明確に思い出すことはできなかった。
「ご馳走様でした」
いつの間にかポテトを食べ尽くした少年は、指についた塩をぺろりと舐めて両手を合わせた。それからベンチからぴょんと立ち上がって「さっ、色々回ろう!俺とデート!」と右手を差し出した。
黙って鞄からウエットティッシュを出してその指先を拭いてやると、彼は照れたようにもじもじと下を向いた。その姿が可愛くて、弟がいたらこんな感じなんだろうな、と思わず笑みを零す。