第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「あ、もう少し詰められますか?」
遊園地のスタッフがスマホを掲げながら言うと、前列の真ん中にいたなまえに、みんながぎゅっと身を寄せた。
「すんません、狭いです」
頭の上で影山の声がした。
「しょうがないだろう、11人もいるんだから」
我慢我慢、と返すのは大地の声。
「翔陽、なんでお前そこにいるんだよ」
右隣の西谷に釣られて上を見ると日向が後ろの列の端に立っていた。前にいる田中によって完全に隠されてしまっている。
「ジャンプするからいいんです!ノヤっさんも一緒に跳びましょ!」
「嫌だね!俺はなまえさんの隣で写る!」と言う西谷に日向も「あっ!ずるい!」と叫ぶ。「俺もなまえさんの近くがいい!月島、俺と代わって!」
「今更動くわけないデショ」
あぁ、また始まった。
なまえは苦笑した。相変わらず収集のつかない集団だ。
「山口と旭も、そんな端にいないでもっとくっつけよ」
ちゃっかりなまえの左隣を確保していた菅原が言った。それから顔を寄せて「あ、なまえの髪の毛、いいにおいする」と囁いた。
騒いでいる連中に気付かれないように、小さな声で。そっと。
「俺、この香り好きだな」
また好きって言った。
なまえは菅原のほうを見た。それから、ありがとう、と囁き返した。
「……っ!?」
彼の頬が紅潮する。
どうしたの?と聞くと、「だって、いつもなら変態!とか言うのに……」と口ごもられる。
そんなやりとりを後ろでこっそり聞きながら、縁下は愛おしそうになまえを見つめた。
「もーいいじゃん!早く撮ろうぜ!中腰はキツイんだよ」
田中が叫んだのを合図に、みんなの口がピタリと閉じた。
「じゃあ、撮りますよー」
スタッフが明るい声で言った。全員がそれぞれポーズをとる。
あぁ、神様。
なまえは彩度の低くなった空に祈った。
もう友情ごっこは今日でやめます。
明日から大人になります。
いつまでもみんな友達なんて言いません。
だから、
だからせめてこの瞬間だけは、この気持ちだけは、忘れないでいさせてください。
結婚して、子供ができて、おばあちゃんになっても、ずっと。
「はい、チーズ!」
カシャリ、と乾いた音が空に響いた。
END
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