第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「わかってる」
なまえは俯いた。「わかってるけど、春高、行きたいんだ」
みんなで、と小さく言ってから、大きく息を吸った。
顔を上げて、真っ直ぐ前を見る。
「だから私は誰とも付き合わないよ」
それから、とびきりの笑顔で言った。「少なくとも、引退まではね」
その言葉に縁下はきょとんとした顔をした。彼の意表を突けたことが嬉しくて、思わず声が零れる。
「引退して、誰かに告白された時、その人がバレー部で一番優しい人だったら付き合うよ」
「なんですか、それ」
縁下が噴き出した「なまえ先輩、ランキングでもつけてるんですか?」
「つけてるよ。優しい人ランキング。順次更新されるけど」
「じゃあ、先輩と付き合いたかったら優しくしてあげればいいんですね」
「私だけじゃないよ。みんなに優しくしないと」
そう言ってなまえはむんと胸を張った。「皆に平等の愛を。仲間思いじゃないメンバーには鉄槌を」
「なるほど」
彼は医者のように頷いた。「そんなこと、俺に教えちゃっていいんですか?」
「勘違いしないで。別に縁下を特別扱いしてるわけじゃないよ。ここまで踏み込んで聞いてくれる人が今までいなかっただけ。日向に聞かれても同じことを言うよ。私は」
「それなら、皆に言いふらしちゃっても構いませんね?」
ゴンドラが大きく揺れる。見るともう地面に着く直前だった。景色を楽しむ余裕なんてなかったな、なんて考えながら、「いいよ」と返した。
「縁下の自由にしなよ」
「わかりました」
ゴンドラの扉が開いた。立ち上がり外に出ようとした縁下が、ピタリと立ち止まる。
「じゃあ、俺、誰にも言いません」
そう言って振り返ってなまえに笑いかけた。「抜け駆けしちゃいます」
なまえはびっくりして、彼に続いて地面に降りた。
「混み入った内側には立ち入らない人間なんじゃなかったの?」と聞けば、「どんなことにも例外はあります」と悪戯っぽく笑って、「ちなみに、俺は現在何位ですか?」と聞いてきた。
「秘密」
「そこは教えてくれないんですね」
教えないというよりは教えられないと言ったほうが正しい。だって自分でも誰が何位だなんて正確に決めているわけではないのだから。