第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「俺達部員の人間関係は、一見仲が良くて安定しているように見えます。でも本当は足場の悪い場所で絶妙なバランスを保ってる状態なんです。貴女が核になっていて、その上にみんなが乗っかっている」
これはあくまで俺の予想ですけど、と縁下はなまえの目を見て言った。「先輩が誰かと付き合えば、そのバランスは簡単に崩れると思います」
この人はどこまで見えているのだろうか。なまえは悲しくなって目を逸らした。柔らかな物腰のくせに、見ないで欲しい箱の蓋を無理矢理こじあけてくる。
「……わたし、誰かに告白されたらどうしよう」
それはずっとずっと恐れていたことだった。皆といつまでも楽しく過ごしていたいのに、それは無理な話なのだろうか。
「縁下なら知ってるよね?一番良い解決方法」
「俺の勝手な推測で良いのなら知っていますけど、言いたくないので言いません」
縁下は涙を堪えるなまえを見ても、平然としていた。
まるで占い師だ、となまえは思った。
彼には良い未来と悪い未来の両方が見えていて、適切なアドバイスをしてくれる。けれど現状が良くなるように動くほど善人でもなくて、ただただ傍観者として行く末を見守っているんだ。
決断してください、と縁下は静かに言った。
「考えることを放棄して知らんぷりを突き通すことこそが一番の罪です。俺はそれが無責任だと言ったんです。けれど、この問題に正面から向き合って考えて、その結果貴女が知らんぷりを続けると決めたのなら、それは罪でもなんでもない、正しいことに変わります」
なまえは黙りこんで考えた。
決断しなければならない、か。
自分にとって一番大切にしたいことはなにか。
一番恐れていることはなにか。
良い未来と悪い未来、両方を考えて、何を一番に優先させるべきなのか、考えた。
観覧車のてっぺんをとうに過ぎてから、決めた、と顔を上げた。
「私は誰とも付き合わないよ。告白されても、断る」
「そうですか」
なまえの様子を黙って見ていた縁下は、いつもと同じように優しく微笑んだ。「俺も、それがベストだと思います」
「でも知らんぷりはしたくない。もし本当に私のことを好きでいてくれる人がいるなら、その人達の気持ちも汲んであげたい。汲んだ上で、断る」
「それはとても傷付きますよ。貴女が」