第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「クラスの男子がよく休み時間に回し読みしてるの」
なまえは肩を竦めた。俺は付き合うなら小野寺がいいとか、結婚するなら東城を選ぶとか、不毛な会話を繰り広げていたので女友達とからかったことがある。
縁下は優しく頷いて「あれは男の視点だと楽しいですけど、よく考えるとなかなか酷い話だと思いませんか?」と言った。
「優柔不断で鈍感な主人公がどの子にもどっちつかずな態度をとるから、結局みんなが傷ついて悩むんです」
「なるほど」
やっと意味がわかった。つまり私がやってることはその主人公と同じなのだと言いたいのだな。納得するなまえに、縁下は目を細めた。
「魅力的なストーリーには葛藤が必要ですからね。でもそれはあくまで漫画のお話であって、先輩は優柔不断でも鈍感な人間でもないです」
「どういうこと?」
「知らないなんて言わせませんよ」
彼には全てが見えているのだろうか。ふんわりとした声だが、その裏に有無を言わせない圧を感じる。「そんなこと言ったら、先輩のことを本気で狙ってる人達が可哀想ですよ。特に、」
スガさん、と彼の唇が動いた。
思わず、あぁ、とうなだれてしまう。やっぱりそうなのか。
息苦しさを感じるなまえに、それだけじゃないですよ、と彼は続ける。
「大地さんも、旭さんも。表に出さないだけで先輩のことが好きです。1、2年は、まだ憧れと恋心の区別がついてない奴のほうが多いみたいですけど」
「縁下は?」
すかさず尋ねた。ここまで言い当てられたことが悔しくて、困らせてやろうとカウンターをしかけたのだ。
「俺は、」彼はふわりと笑った。「俺は、そういう混み入った内側には立ち入らない人間なので」
あぁ、やっぱり厄介な奴、となまえは思った。
縁下は目立つほうじゃない。普段はそんなに喋らない。けどその代わりよく見ている。客観的にみんなをよく見ている。
「縁下、私はどうしたらいい?」なまえは苦しくなって尋ねた。
「そのままでいいんじゃないですか」
「でも、」
「みんなを平等に愛して、平等に傷付けてください」
これが独裁者のように脚を組んで見下されながら言われたのだとしたら、どれだけ惨めな気持ちになっただろうか。けれど骨の歪みを気にするスポーツマンの縁下は、両足を揃え、膝の上に握りこぶしを置いたまま優しく語りかけた。