第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
縁下と2人で観覧車の丸いゴンドラに乗り込んで、向かい合うように座った。
スマホの時計を見る。時間は16時18分。閉園まではまだ時間があるが、明日も朝の7時半から朝練があるため早めに帰ったほうがいいだろう。この観覧車がラストかな、と考えて外を眺めた。
太陽はまだ地平線よりも上にあって、ガラスから差し込む日差しが暑い。
「まだ悩んでるんですか?」
最初その声は頭の上から降ってきたのかと思った。驚いて見渡すが、案の定この空間にはなまえと片手て頬杖をつきながら外を見ている縁下しかいない。とすると、今の声は彼の口から出たということになる。
「なんのこと?」と尋ねた。
縁下は外に視線を向けたまま少し黙って、それから口だけを動かした。
「じゃあ質問を変えます」
そして、頬杖をついたまま視線だけをこちらに投げかけた。
「なまえ先輩は、誰が好きなんですか?」
その瞳は恋する青年なんかじゃなく、アリの巣を見つけた子供のような瞳だった。言いおったなこいつ、となまえは思った。
「誰が好きとかはないよ」
「みんなが好きなんですか」
「うん」
「へえ、それは…」
縁下は正面に座りなおしてなまえと向き合った。「それは随分、」
「残酷?」
言われる前に先に自分から聞いた。昼間の旭の表情を思い出す。
縁下は一瞬きょとんとした顔をしてから、いえ、と柔らかく微笑んだ。
「残酷とは思いませんが、無責任だなとは思います」
その言葉に、なまえは目を伏せた。2つの言葉の違いは分からないが、どちらにせよ批判されていることに変わりはない。どうやら私は自分でも知らないうちに悪人になってしまったらしい。
「先輩は自分のことを残酷だと思ってるんですか?」
「ううん。旭に言われたの」
「へえ」縁下は意外そうな顔をした。
「でも私はその意味がわからないの。私って残酷で無責任なの?」
その質問に対する返事はなく、代わりに「先輩、少年漫画って読みます?」と聞かれた。
「まあ、多少…」
「ラブコメは?」
「ラブコメ?」
「主人公の男子が複数の女子に囲まれて、振り回される漫画です」
「あぁ…ニセコイとか、いちご100%とか?」
「よくご存知ですね」