第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
ここに立ってるだけでいいですよ、と係員に説明される。横を向いててください、と言われ、しょうがなく90度身体の向きを変えた。隣に立っていた影山と正面から向かい合わせになる。
調教師のお姉さんが、なまえの頬に指を乗せた。ここだよ、サンデー、とキスの位置を指定する。すかさずサンデーがぐいぐいと顔を近づけようとしてくる。もしお姉さんが手を離したら速攻キスされるに違いない。なんて破廉恥な。なまえは怖くてアシカの方を見れなかった。
『心の準備はよろしいですか?』
お姉さんが笑顔で聞いてきたので、黙って頷いた。影山と目が合う。
『それでは!はい、チュー!』
トン、と頬に冷たい感触と、生臭い息。
その瞬間、目の前の影山の眼光がギンッ!と鋭くなった。
『はーい、拍手ー!!』
温かい笑い声と拍手が起こる。
『ありがとうございましたー!席にお戻りください』
お姉さんに促され、なまえは動かない影山の肩を叩いた。
「影山、怒るんじゃない」
「…コロス」
「影山、相手はアシカだ。やめなさい」
彼を引きずるようにして席に戻った。
座ってからハンカチを出して、頬を拭いた。なんかぬめっとしていて気持ち悪かったからだ。
ショーはまだまだ続いたけれど、すっかり目が覚めてしまった。
影山を見ると、彼はまだ不機嫌な顔をしている。相変わらず少しずれている子だ。
こっそり笑っていると、ポケットのスマホが振動した。
取り出して通知画面を確認する。
“菅原孝支が画像を送信しました”
写真を撮ってくれたのだろうか、とトーク画面を開こうとしたところに、次の通知が届いて手を止めた。
菅原『影山、アシカに嫉妬するの図www』
そしてまた振動。
西谷『wwwwww』
田中『wwwwww』
“月島蛍がスタンプを送信しました”
“縁下力がスタンプを送信しました”
西谷『ちょwww』
どんどん通知が来る。なまえは怖くなって、トーク画面は開かずにそっとスマホを鞄にしまった。
隣の影山をちらりと見る。今のこの子に見せたらもっと怒ってしまうだろう。
その視線に気がついたのか、影山がこちらを見た。頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。なまえは、なんでもないよ、と唇を動かして、マーシーとサンデーに視線を戻した。