第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
『はーい皆さん、お待たせしました!これからイルカのマーシーくんと、アシカのサンデーくんのショーの始まりでーす!!』
快活な女性の声で目が覚めた。いつの間にか、影山によりかかるようにして眠ってしまっていた。
「あ、ごめん」
目をこすりながらそう言うと、影山は気にする様子もなく、いえ、と短く答えた。
『早速イルカのマーシーくんを皆で呼んでみましょう!せーのっ』
マーシーくーん!
なんて、高校生になって言うはずもなく、なまえと影山は無言で調教師のお姉さんを見つめた。後ろから元気な男子高校生の声も聞こえる気がするがきっと赤の他人だろう。
白っぽい灰色のイルカが水から飛び出した。いくつか簡単な芸を披露して、次にアシカが出てくる。
一生懸命な彼らとお姉さんたちには悪いが、なまえはどうしようもなく眠くてショーどころではなかった。中学の修学旅行で見た水族館でのショーのほうが本格的で、遊園地の規模では退屈は凌げない。
こくり、と頭が揺れては起き、また揺れては起きる。最前列にいることもあって居眠りは申し訳ないと思い、必死に顔を上げていた。
『さぁ、次は皆さんの誰かに協力してもらいましょう!誰にしようかなぁ。サンデーくんは、誰がいい?』
お姉さんが耳に手を当てると、アシカがそこに口を寄せた。まるで内緒話をしているみたいだ。
なまえが欠伸を噛み殺していると、『わかった!じゃあこちらのカップルにお願いするね!』と声がした。それがマイクごしの声ではなく、地声まで直接聞こえたので、驚いて見ると、お姉さんがニコニコとこちらに向かって手を広げていた。
「え?」「は?」
なまえと影山が同時に声を出した。授業中に突然当てられたときみたいに、一気に眠気が吹っ飛ぶ。
『どうぞこちらに!』と言われても、すぐには動けない。『高校生かな?初々しいですねー』
なんて言われてようやく自分たちが指名されていることに気がついた。隣の影山が立ち上がったので、彼を見る。
なんかちょっとそわそわした顔をしていた。
嬉しいのかよ!
その様子が可愛くて、なまえも笑いながら立ち上がった。カップルじゃないんですけど、という否定は心の中にしまっておく。
『それでは、まずは彼氏さんに協力していただきましょう!マーシーくんとのキャッチボールです!』