第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
お腹の底から叫んだら、疲れがどっと押し寄せてきた。朝から歩き通しでそろそろ足も痛い。
ちょっと休憩を、とは言ったものの休日の遊園地の午後は誰でも疲れるらしく、どこのベンチもへばった大人たちで埋まってしまっていた。困っていたところに、園内スピーカーからピンポンとアナウンスが流れ始めた。
『本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。15時30分から本日最後のイルカ&アシカショーが始まります。どうぞショーステージまで足をお運びください』
「イルカとアシカのショー…」
なまえはぼんやりと呟いた。正直余り興味はないが、座れるとしたら座りたいと思った。
「行きましょう」
そう言ったのは影山で、「見たいの?」というなまえの質問も無視して言い切った。「次は俺の番なんで、俺が決めます。行きます」
仏頂面で歩き出す彼に、残りのメンバーも目配せしあった後、黙って影山について行った。
パークの敷地内の一番奥に、屋根で覆われた大きな水槽があった。まだ開始まで時間があり、席も空いている。影山は皆を後ろのほうの席へ追いやったあと、なまえの腕をとって最前列へと誘導した。
あぁ、成程。
座ってからやっと納得がいった。ショーまではあと20分ほどあるから、それまでは2人きりの時間だ。影山はそれを狙っていたのだろう。
黙って前の水槽を見つめる影山を見て、この子は無言でも何を考えているのかよくわかるんだよなぁ、と考えた。
多分今は、どのくらいの距離感で座るべきかとか、2人きりになったのはいいが何を話したらいいのかとか、そんなことを考えているのだろう。表面上は静かだが、頭の中はぐるぐると回転しているはずだ。深く刻まれた眉間のシワがそれを物語っている。
「影山」
「はい」
「そんな怖い顔しないで」
「え、」
してますか?と影山がなまえの方を見た。影山の顔を真似して眉間にシワを寄せてみせると、彼はいっそう深刻な顔になった。
「何話したらいいのか、わかんないっす」
「あはは、だろうと思った」
そこから無言が続いた。太陽の下で長く男子たちと行動していたからもうへとへとだ。段々と眠くなってきて、いつの間にかなまえは目を瞑っていた。