第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「あー」
自分の両足で地に立って、なまえが締りのない声をだした。「大丈夫か?」と大地に聞かれても「うーん」と力のない声しか出ない。
「怖かったねー」
山口に言うと、ですねー、とカスカスの声が返ってきた。
隣で散々騒がれたはずなのに、月島は何も言わずにツンと澄ましている。彼もまた、優しい人間なのだなぁと考えて、なんとなく山口が月島と一緒に居続ける理由がわかった気がした。
それから、月島が山口を邪険に扱わない理由も。
山口と悲鳴が重なった時、あ、私と彼ってレベル的に一緒なんだな、と気がついた。
一緒に怖がって、一緒に叫んで、一緒に笑ってくれる。
確かに西谷みたいに動じない人が隣にいると安心するのだけれど、山口みたいに感情を共有してくれる人が隣にいるのも、それはそれで安心する。
いいなぁ、山口。なんかいいな。そばに置いておきたい男の子だ。
少しだけ青ざめた顔で笑う彼を見て、そんな風に考えた。
「よく頑張ったなぁ、山口」
西谷が山口の頭を撫でた。菅原も、大地も、縁下も。みんなが山口に話し掛けた。
彼は人並みに楽しんでいたのだけれど、やはり他からみれば心配に見えたのだろう。
周りがすごすぎるんだなぁ、と思った。私も平凡だからわかるけれども、烏野のバレー部のみんなはすごすぎる。色々とキャラが濃いし、色々とずば抜けている。
そんな皆の中で山口はバレーをしているのだから、追い付いていくだけでも必死なんだろうな。
たくさん悔しい思いをして、引け目を感じてはいやしないだろうか。
必要以上に自分を卑下して、押し潰されそうになってはいないだろうか。
部活の練習中、なまえはいつもそんな目で山口を気にかけていた。
自分より上の人たちに囲まれるその環境こそが、一番成長できる環境だということは誰でもわかる。きっと彼もそれを知っている。けれど、その中でひたむきに努力を続けることは、誰にでもできることじゃない。
すごいな、と思った。山口はすごいな。誰よりもすごい。
「偉いね、山口!」
なまえは彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。「山口、すごいよ。偉い偉い」
やめてください、なんてことも言わずに、彼は困ったような、照れたような顔をして笑った。
「なまえ先輩も」
偉いですよ、と言った彼の声は、優しくふわりと空に浮かんだ。