第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「ねぇねぇ、あれは?」
なまえは半ば冗談のつもりでそれを指さした。垂直落下のアトラクションである。
てっぺんからストンと落とされる。一番下まで落下して、再び上がって落とされる。正確にはフリーフォールとは別物なのかもしれないが、いずれにせよ絶叫系には変わりないだろう。
「いいですよ!」
「えっ!」
即答する山口になまえが目を丸くした。きっと彼なら断固拒否してくれると期待していたからだ。
「…山口、あれ、相当こわいよ」
「ですよね!」
山口は子供のようにはつらつと言った。「でもせっかく来たんですし、乗りましょうよ」
歩き出した彼の背中を、なまえはびっくりして見つめた。
「残念でしたね」
いつの間に横に立っていたのか、月島が話しかけてきた。「山口のこと、臆病だと思ってるとしたら考え直した方がいいですよ」
あいつ、蝉とか素手で捕まえますし。という月島の言葉に「めっちゃ男子ですやん!」と驚くと「男子ですよ…」と心底面倒くさそうな顔をされた。
言われてみれば確かにそうだ。
日向と共に先頭を歩く山口を見ながら考えた。
いつも月島と一緒にいるから気付きにくいが、山口は身長も高く体力もないわけじゃない。おまけに進学クラスの4組に在籍している。比較対象の月島がムカつくほどに色々恵まれているだけで、総合的なスペックは日向よりも山口のほうが上なのかもしれない。
「まぁ僕がわざわざ言わなくても当然ご存知ですよね。みんなに愛を振り撒くマネージャーなんですから」
その言い方!とカチンとくる。本当、月島だけは後輩のくせに可愛げがない。ぐぐぐ、と反論できないでいると、「ツッキー!」と山口がこちらを振り返った。
「ツッキーもあれ、乗るよね?」
楽しそうにはしゃぐ山口に、乗るよ、と一言、月島が返した。
全然タイプの違う2人なのに、この仲の良さはどこからくるのだろうか。
いや、むしろなぜ山口はこんなツレない月島を慕って行動を共にしているのだろうか。
なまえは月島の長い手足と、整った横顔をじっと見つめた。常にこのハイスペック野郎と比べられたらたまったものじゃないだろうに。山口は劣等感を感じないのだろうか。
「何ですか?」
なまえの無遠慮な視線に、月島にジロリと睨み返される。
なんでもないです、と急いで山口の隣へ避難した。