第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「相手が人形なら、最初っからそう言え!ボケ!」
日向の頭を鷲づかみして影山が怒鳴った。それに対し日向は、でもさー、とフランクフルトを頬張りながら抗議する。
「キスはキスだろー。嫉妬すんなよ、影山クン」
「してねぇ!よ!」
ムキになった影山が一層指を食い込ませる。痛がって暴れる日向に「わかるぜ、翔陽」と西谷が頷いた。
「例えパンダでも、人生最初のキスっつーのは重要なもんだからな」
しみじみと腕を組む彼に「西谷のファーストキスへの拘りは何なんだ」と旭が呟く。
「そういう旭はいつだったんだよ?ファーストキス」菅原が肘で旭を突付いた。
「言わないよそんなこと!」
「聞きたくもないな」
大地の言葉に、全員がどっと笑った。
そんな彼らに囲まれて、なまえだけ会話に入れずに息を切らしていた。
膝に両手をついて、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返す。
あんだけ走ったのに、なんでみんな平然としてるのよ!
喋ることもままならず、心の中で叫んだ。
休日のパーク内を縦横無尽に疾走する日向を捕まえるのは予想以上に大変だった。
10人がかりで取り囲み、最終的には食べ物で釣るという野良犬の捕獲に近いことをして、なんとか彼の保護に成功したのだ。
散々走った直後もけろりとしている彼らは流石というかなんというか。
マネージャーとしては嬉しいが、自分の体力の無さは泣けてくる。
「大丈夫ですか?」
声をかけられて顔を上げると、山口がペットボトルの水を差し出していた。
「そこの自販機で買ってきました」
それを受け取って蓋を開ける。一口飲んで、ありがとう、とお礼を言った。
「ゆっくりしてていいですよ。次、俺の番なんで。落ち着いたら行きましょう」
「ありがとう、山口」
もう一度お礼を言った。なんて優しい子だ、山口。バレー部の中で一番優しい、と考えて、今自分の中のランキングはどうなってるんだろう、と他人事のように思った。
黙って水分を補給すると、すぐに元気が戻った。もう大丈夫、行こう、と彼に話しかけると、実は…と困ったように切りだされる。
「まだ何にするか決めてないんです」
「あぁ…もう乗り物なんてあんまりないもんね」
あるとしたら幼児向けの小さいものばかりだ。
どうしたものかと考えあぐねていたところに、遠くにそびえ立つ一本の柱が目に入った。