第20章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午後の部
「だ、大丈夫ですか?先輩」
いきなり取り乱したなまえに日向が怯えた。大丈夫だよ、とすかさず笑顔を返す。
「女の子ならぬいぐるみは喜ぶよ。きっと」
「ですよね!」
日向はなまえの態度に疑問も持たずに手元のパンダを見つめた。「あでも、夏はまだ小さいから、もうちょっと小さいぬいぐるみのほうがいいのかな」
それならば、と隣の棚の手乗りサイズのぬいぐるみをオススメした。触り心地もふわふわで、愛でるのにちょうどいい大きさだ。
「ふあー!これにします!ありがとうございます先輩!」
目を輝かせる日向に幸せを感じる。もういっそのこと我が家に来てくれ。無論夏ちゃんも一緒に。
*
「あれ、なまえ先輩、それ買ったんですか?」
売店を出たところで、なまえの手に被せられたパペットを日向が発見した。
「うん!気に入っちゃったから、自分用」
そう言ってぴょこぴょこと手を動かすと、へぇー、と日向が目を細めた。
「可愛い!」
お前のほうが可愛い!!
なまえはそう叫びたくなるのを堪えて、代わりに昔見たCMを思い出した。
「ひーなた!」
夏ちゃんへのお土産を確認している日向の名前を呼ぶ。え?と振り返った彼の唇に、パペットの口を優しく押し当てた。
ちゅ!
「奪っちゃった!」
果たしてこの元ネタを知っているだろうか。なまえが小学校低学年の時に見たのだから、もうかれこれ10年ほど前のはずだ。
なんて考えていたら、俯いた日向がわなわなと震え出した。驚いて覗きこむと、彼の顔は真っ赤に染まっている。
「……せんぱい、」
日向が掠れた声をだした。あれ?と思う間に、彼の目が潤み始める。
「ひ、日向?」
「俺、はじめてだったんですけど」
「え?」
「責任取ってください!」
「えぇっ!?」
ガバリと顔を上げた日向に思わず仰け反る。同時に背後から「なまえさぁん!」と西谷の声がした。振り返ると。皆がこちらに向かって歩いてくるところだった。
「買い物終わりましたかー?…って、翔陽?どした?」
只ならぬ様子の日向に、西谷が尋ねた。日向は「んノヤっさん!」と甲高い声をあげて彼に抱きついた。
「なまえ先輩にファーストキス奪われました!」