第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
「ライン?」
「ここまでは友達、ここから先は好きな人とじゃないとしない、みたいな」
「うーん、確かに、手を繋いだりは男友達とも普通にするけど、ハグやキスはしちゃいけないと思うな」
「へぇ……」
旭はぼんやりと相槌を打って、なまえの左手に自分の手を重ねた。
「なまえは、こうしてても普通の友達なのか」
低く、優しい声だった。
「うん」
「でもそのラインって、人それぞれだと思わないか?」
「思うよ」
「俺にとっては、これだけでももうラインの外に出てるんだけど」
あら、この人も遠回しの告白かしら
なまえは旭の目を見た。彼は照れているけど、真っ直ぐな目をしている。いつもの気弱な青年はどこにいったのだろう。
「なるほどね」
なまえはオムライスの最後の一口を飲み込んで言った。「私にとって異性と手を繋ぐことはなんとも思わないことだけれど、旭にとっては憚るべきことなのか」
「変な話だな」
「そうだね。この世は変なことばっかり」
「全くだな」
「でも、私は私の倫理観の中で愛を振り撒くよ。どうか御理解と御協力を」
「そうか」
旭は納得したように言った。「なまえはみんなを平等に愛するのか」
「それがマネージャーの務めですから」
「そうか」
旭は変わらないトーンで言った。「それは、残酷だな」
「え?」
「……」
「……」
「……」
「残酷、かな」
「ごっ、ごめん!」
沈黙に耐え切れずに旭が謝った。ごめん、ほんとごめん。今のは忘れてくれ、と。
「いや、大丈夫だよ。新感覚。多角的視点」
「気にしないで、俺だって誰も差別しないなまえの方がいい」
「いや、いいっていいって。他人への忠告にそんなびくびくしなくても」
「ごめ、」
「しつこい」
「うっ……」
その後、他愛もない会話をしながらなまえは旭の言葉の意味を考えた。
平等平和主義者の私が残酷とは、どういうことだ。
トレイ返却棚の前で、「ごめんな」とまた謝られたので「旭、やっぱあんた可愛いね」とからかった時も、考えていた。
「はーい、御二方、痴話喧嘩はお済みですか?」
お迎えに上がりました、と田中がかっこつけてきたときも、考えていた。
考えても、結局答えは出なかった。