第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
「災難だったね」
なまえは目の前の旭に声をかけた。丸くなった背中を軽く撫でてやると、彼の背筋がすっと伸びる。
旭を発見した時、彼は何をしていたかというと、泣いている子供を見つけ、声をかけたら一層泣かれ、途方に暮れておろおろとしていた。
「何やってんだあいつ」「迷子かしら」と皆と眺めていると、母親らしき人物がとんできた。そして驚くべきことに旭を誘拐犯!ロリコン!などと詰り始めたのだ。
慌ててなまえが駆け寄って旭の無実を訴え、やっとのことで誤解が解けた。ちなみに残ったメンバーは誘拐犯!ロリコン!と大爆笑していただけだった。
「なまえのおかげで助かったよ。ありがとう」
眉尻を下げて礼を述べる旭に、どういたしまして、と明るく返す。
「でもあの母親も酷いわ。いきなり旭のこと不審者扱いして」
「しょうがないよ。こんな見た目だしさ…それに、親が取り乱すのはそれだけ子供を大切に想ってるっていう証拠だろ」
平気だよ、俺。と笑ってみせる割には、落ち込んだ声をしている。嗚呼、この人は優しさの裏でいつも傷ついてしまうなぁ、と考えて「よし!」と手を叩いた。
「この話はおわり!ところで、次は旭の番だよ」
「何の話?」
「ほら、じゃんけんで決めた、」
「あぁ…ほんとに俺?真ん中辺りだった気がするけど」
「うん、5人目」
「そっか…何も考えてなかった」
旭は頬を掻いて、うーん、と天を仰いだ。
「じゃあ、なまえの行きたいところに行こうか」
「えっいいの?」
「だってずっと連れ回されてたろ。せっかくの遊園地なんだから、なまえも我儘言わなきゃ」
「旭…!!」
我がバレー部にこんな成人…じゃなくて、聖人君子がいたとは。
なまえは嬉しくて旭の腕に絡みついた。慌てる声が聞こえるが気にしない。
私の行きたいところか……
行きたいところ…
突然言われるとすぐには出てこない。うんうん悩んでいたら、お腹がぐう、と音をたてた。
「お腹が空いちゃったから、ご飯でもいいかな?」
「え、あぁ、いいよ。もう12時過ぎてるもんな」
「いいの?」
「いいよ」
「ほんとに?」
「ほ…ほんとに…」
「旭って優しいね。バレー部で一番優しい」
「それ、さっき大地にも言ってたろう」
「たった今ランキング更新された」
「そっかぁ」