第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
「あー、楽しかった」
まだ完全停止しないうちに、菅原が秋空の如く澄み切った声で言った。「もう1回乗りたい!」
「私は嫌」
「乗りたい!このまま座ってよっかな」
「馬鹿」
さっさと出口に向かいながら、なまえは少し気分が悪くなった。目が回って酔ってしまったのかもしれない。
「おい、」
大きく深呼吸をしたその目の前で、大地が菅原の肩を掴んだ。「聞こえてたぞ」
「何が?」
菅原はぼさぼさに乱れた髪を直しながら、けろりとしている。
「いつもの茶番」
「あぁ......なんかテンション上がっちゃってさ」
「お前らは平気だろうけどな、向かい側で聞かされる俺らの身にもなってくれ。恥ずかしすぎる」
「でも青春って感じで良かっただろ?な、なまえ」
菅原がこちらを向いた。その顔はいつものように人懐こい笑顔を湛えていたけれど、その瞳のずっとずっと奥のほうで、縋るような光を放っていた。
それを見て、うん、と頷く。
わからない。
彼がどこまで本気なのか、私にはわからない。
だって菅原はこういう時、いつもふざけているから。
だから私も今まで適当に相手をしていた。
けど、
さっき、気付いてしまった。
なまえは無理に笑って「大地、安心して。私あなたのこともちゃんと好きよ」と悪乗りして菅原の隣に立った。
菅原は、
いつもおどけて好きだというこの人は、
本当の気持ちを真剣に伝える勇気がないだけなのではないだろうか。
あぁ、嫌だ。
それってさ、一番男らしくないよね。
だって逃げてるんだもんね。
はいはいどうも、なんて呆れる大地を見ながら、なまえは歯をぐっと噛み締めた。
「大地、俺...次は旭だったよなー......ってあれ?あいつどこ行った?」
きょろきょろとエースの姿を探す彼の背中をじっと見つめる。
菅原、あんたが逃げている間は、私も気づかない振りをし続けるよ。
だからいつか、正面から言う勇気出してよ。
.......その時の状況次第では、私の返事もやぶさかではないんだからね。
ゆっくりと目を閉じたなまえだったが、「ちょっと!旭が子供に泣かれてるんですけど!」と叫ぶ菅原の声が聞こえて、思わず「え!どこどこ!?」と食い付いてしまった。