第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
「えっ、これ、回転するの?」
完全に放心していたなまえが我に返った時には、既にアトラクションに乗り込み安全バーに固定された後だった。
「いや、さっき口開けて見てただろ?」
隣の席には菅原がいた。他のメンバーの姿が見当たらず、「みんなは?」と尋ねた。
「あそこ」
指さすほうを向くと、遠くでこちらと向かい合わせにみんなが座っている。どうやらなまえと菅原が片方の端の座席に座り、他のメンバーはもう一方の端に座っているみたいだ。こちらの視線に気付いた西谷がブンブンと手を振っている。
「ここみたいな端っこって、一番こわいんだよな」
菅原が手を振り返しながら言った。
「え、そうなの?」
「遠心力は半径に比例する。F = mrω² だべ?」
「でも F = mv²/r でもあるよね。反比例もしてるよね」
「あれっ!?ほんとだ……俺もうわかんないや」
「頑張ってよ、進学クラス」
そんなやりとりをしている間に、乗り物が動き出した。
初めに斜めに船体が持ち上げられ、そのまま振り子運動に入る。そこまで大きな動きでも無いはずなのに、背筋がぞくり。
「きゃー!!!」
高い声を出したのはなまえではなく菅原で。余裕を感じさせる彼の悲鳴に、同じく余裕ななまえも「女子か!!」と突っ込んだ。
もっと切羽詰まったら「うおお!!」とか言い出すのかな。
そういえば、菅原の全力の絶叫ってあんまり聞いたこと無いかもしれない。
聞きたいような、聞きたくないような......
なんてぼんやり考えているうちに、どんどんスピードが上がっていく。とうとう余計なことを考えるのを放棄して、身体を縮めて悲鳴をあげる行為に専念せざるを得なくなってしまった。
船体がぐわんと頂上に達して、逆さまになる感覚。
なまえの長い髪の毛が、重力に従って真っ直ぐに垂れ下がっていた。自分の悲鳴も、ポトリと落ちて頭上の地面へ吸い込まれていく、錯覚。
「すっげー、空が下にある」
透明な声がした。首を捻って隣を見る。
逆さまの世界で、菅原と目があった。
全開になっている彼のおでこを見て、綺麗な額だな、なんて考えて、意外と冷静な自分に驚いた。
回転するには遠心力が足りなかったのか、海賊船が前に戻り始める。
猛スピードで世界が回る。