第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
どの子にしようかなぁ。
迷っていたら、「なまえ、」と呼ばれた。振り返ると、大地が手招きしている。彼が手を添えている木馬を見て、え、と声を出した。
それは他のよりも一回り大きな、2人乗り用の木馬。
周りのメンバーも、えっ、と振り返った。
「キャプテン、それ、親子で乗るもんじゃないんですか」
山口が尋ねると大地は「あれ、知らないの?」と片手を腰に当てた。
「ここは大人の2人乗りもできるんだぞ。カップル用に」
その言葉に、えー!と非難の声が上がる。
「なんスかそれ!セクハラし放題じゃないスか!」
田中が苦言を呈すると、聞こえないなぁ、なんて大地がとぼけた。
「文句と妨害行為は禁止のはずだけどなー」
う、と全員が閉口するのを確認して、「なまえ、ほら」と急かす。
大地の目が据わっている。こういうときの彼は、笑顔でもなんか恐いんだよなぁ。
なまえは大人しく2人用の馬に跨った。目の前のポールを握ると、大地も後ろに乗り込んだ。木馬が少しだけ揺れて、身体が密着する。後ろから抱かれるように腕が回されて、なまえの手の上に大きな手が重なった。
あぁ、これは、傍から見れば完全なカップルだな。なんて考えて「どう、大地?」と後ろの彼に感想を求めた。
「うーん…思ったより、狭いな」
困ったような声が返ってきた。大きな手がなまえの手から離れ、ポールの何もないところを掴む。
『はーい、それでは、しっかりお掴まりください。出発でーす』
係員の声を合図に、発車のベルが鳴った。
「あ、ごめんなまえ。もう少し前、つめれるか」
「え、うん」
耳元で囁かれて、言われた通り、前のスペースギリギリまでつめる。2人の身体の間に余裕が生まれた直後、音楽が鳴ってゆっくりと動き出した。
「……」
「……」
「…大地、」
「な、なんだ」
ぎくりと彼の身体が揺れたのがわかった。
「自分からやっといて緊張しないでよ」
口を尖らせてそう言うと、「す、すまん」と焦った声がする。
「なんか、思ったよりも恥ずかしくてさ」
そうしてまた無言。
知ってる。
私は知ってる。
普段は大らかでみんなを気遣う彼も、余裕が無いときは無口になることを。
そしてその沈黙が、みんなの加虐心に火を点けることも。