第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
「おい、なまえ!」
名前を呼ばれてはっと我に返る。大地の大きな手が肩に置かれていた。
「大丈夫か?出てきたばっかりだから、少し休んだほうがいいぞ」
心配そうなその瞳に、いや、と頭を軽く振って答えた。「いや、全然、平気。元気だから」
「そうそう、余裕でしたよね、先輩」
月島が片手を口の横に立ててからかった。じろりとそちらを睨みつけると、大地がだいたいの事情を察して、じゃあ次は緩いのいくか、と言った。
「緩いの?」
「うん、そうだな…」
入り口で配られた園内マップを広げて、これなんてどうだ?と指で示した。なまえも覗きこんで、その文字を読み上げる。
「めりー…ごーらんど…」
「お化け屋敷のすぐ近くだろ?ほら、あそこ」
見ると、成程。色とりどりの木馬が上下に揺れながら大きな円を描くように回転していた。
平和である。実に平和。
「私は構わないというかむしろ嬉しいけど…大地はいいの?あんな子供っぽいので」
「いいんだ。叫ぶのが続いたから、他のヤツも疲れるだろうし。休憩、休憩」
そう言って笑う彼に、相変わらずだなぁ、となまえも笑った。
「大地ってバレー部の中で一番優しいよね」
「お、そうか?なんか照れるな。ありがとう」
*
「白馬いただきー!」
ゲートが開くと同時に、日向が一目散に駆け出した。
「ずるいぞ翔陽!」と後を追う西谷を見て、「子供…」と山口が呆れた顔を見せる。
「そんじゃあ俺は、こーれっ!」
ひらりと手近な馬に跨った菅原を見て、なまえは「おぉ…」と感嘆の声をあげた。
彼の髪色と同じ灰色の木馬。その上できりりと背筋を伸ばす姿が様になっている。
影山はコート上の王様なんて称されたりしてたけど、王子さまキャラなら断然スガだな。
そんなことを考えていたら、菅原がその視線に気が付いて「ちょっとなまえ、見とれすぎ」と語尾にハートマークがつきそうな声で喋った。
「俺のこと、好きになっちゃった?」
「うん、好きになっちゃったかも」
なまえもいつものノリで返す。ちなみに、彼とは1年の頃からこんな感じだ。
「茶番はいいから、早く乗りなさい」
散々聞き飽きたであろうやり取りに、旭が突っ込んだ。それもそうね、とさっぱり言って周りを見回す。