第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
看板に書いてあった通り、中は廃れた病院という設定らしい。緑色の非常灯が揺らめく中を進んでいく。
妙な形に膨らんだ簡易ベッド
生々しいホルマリン漬け
包帯の巻かれた人だったであろう何か
すべてが今にも動き出しそうで、思わず前を進む月島を呼び止めた。
「月島、絶対置いてかないでね」
彼は足を止めると、静かに振り返った。
「さぁ、どうですかね」
こいつ…!
ぐ、と声を詰まらせて月島を睨み上げた。抱きつかれてラッキーを期待してるどころか、私が泣き叫ぶ姿を期待している顔だ…
「…置いてってみなさいよ。明日の部活で糾弾してやるから!」
「全然脅しになってませんから…そんなに置いてかれるのが嫌なら、先輩が掴んでればいいじゃないですか」
そう言って手を差し出される。
くっそー!なんだよその態度!さっきの西谷を見せてやりたいよ!
悔しがりながらもその腕に手を回した。私の敗北である。
「ちょっと先輩、手を繋ぐだけですって。腕に絡みつかれたら歩きづらいんですけど」
「うっさい!」
恐怖心を払拭しようと大声を出したところに、赤ん坊の泣き声が聞こえて、ひっ、と声が出た。
廊下の奥からだろうか。不気味に反響する泣き声に、歩きながら月島に身を寄せた。そして頭をフル回転して考えた。そうだ、何か楽しい話をしよう、と。
「月島は、子供何人欲しい!?」
「は?」
「男の子と女の子、どっちがいいかな?ってか、月島って父親に向いてないよね!ネグレクトとかしそ…ぴぎいいいぃぃ!!」
突然隣のロッカーがガタン!ガタン!と動き出した。中に閉じ込められた何かが暴れているように、鎖で巻かれた扉が歪む。
「…なまえ先輩、煩いんですけど。痛いんですけど」
気付けばロッカーとは正反対側の壁に張り付くように避難していた。なまえと壁との間に挟まれた月島は、窮屈そうに眉間にシワをよせる。
「だって、」
「てか、ぴぎいって」
「うっさい!」
ぷ、と噴き出した彼に怒鳴る。はいはい、と彼は愛想なく歩き出すので、慌ててその腕をひしと掴んだ。
「先輩が何に怖がってるか知りませんけど、」
月島はその長い手足を凛と伸ばして言った。「命獲られるわけじゃないんですから、あまりガチガチになる必要はありませんよ」