第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
月島さん、月島さん、と隣の彼に呼び掛けると、なんですか、先輩、と気怠そうな声が返ってきた。
「これ、ほんとに行くの?」
「行きますけど…あれ、もしかして怖いんですか?」
「こっ…わくない!…わけない!」
「ですよね」
月島はどっちでもいいですよという態度で頭上の看板を指さした。「だってお化け屋敷ですもんね」
そこには黒字に赤色で『廃病院の怨念』との文字が並んでいる。
最悪だわ。これは本当に最悪。
頭を抱えるなまえの後ろで田中が「あぁー、俺がなまえさんと入りたかったのに!」と叫んだ。
「月島コラ、なまえさんに抱きつかれてラッキーとか期待してんじゃねぇぞコラ」
「期待してませーん。田中先輩と一緒にしないでくださーい」
「はいはいお前らやめなさいよ」
菅原が2人の間に割ってはいる。そのまま「月島となまえはペアでいいとして、俺達も適当に分かれて入ろうか」と提案した。
特に抗議の声も上がらずに、並んでいた順に時間をあけて暗幕の中へ吸い込まれていく。
《1組目・大地、日向ペア》
「日向、叫んでもいいが勝手に走ってくのはナシな」
「お、おす!よろしくお願いしやーす!」
《2組目・旭、西谷ペア》
「いやぁ、西谷とだったら気が楽だよ」
「叫んだ分だけ後でフライングですからね、旭さん」
「え」
《3組目・菅原、田中、山口ペア》
「田中、山口のこと真ん中に挟んでいくぞ」
「うーっす」
(うわあ…俺、ツッキーと離れて大丈夫かな…)
《4組目・縁下、影山ペア》
「影山、全然怖がってないな」
「…? 全部作り物じゃないスか「王様、恥ずかしいから人形にはガン飛ばさないでね」…んだと月島ゴラァ」
…みんないい感じに安定感のある組み合わせだなぁ。
先に入っていくメンバーを見送りながら、なまえは思った。それに比べて、私はハズレくじだ。
「僕じゃ不満ですかね」
とうとう2人だけになって、月島がぽつりと言った。
「不満というか、不安だね」
「そうですか」
言いながら2人で入り口のカーテンをくぐった。
現世から離れてあちらの世界へと足を踏み入れる。
明るい日差しと陽気な音楽が遠のき、ひんやりとした暗闇が身体に纏わりついてきた。
無事に戻ってこれますように、と胸の中で祈る。