第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
車体がゆっくりと傾く。落ちる直前が、とても長く感じた。覚悟を決めて手に力を込める。
「なまえさん!!」
突然西谷が叫んだ。驚くほどの握力で手が握られる。
「目、開けといてくださいよ」
高度70m、はっきりと聞こえた彼の声。
ふっと息苦しさがなくなった。
あ、なんか大丈夫かも。
アリスが穴に飛び込んだように、自分の身体も重力に預ける。
直後、圧力と浮遊感が身体を襲う。
「やっぱ、無理無理無理ー!!」
猛スピードで急降下、そして急上昇。
「ちょちょちょっと、待って待って待ってー!」
レールが軋む音と、風を切る音。
コースターが真横に傾き、振り落とされまいと必死に安全バーにしがみついた。
私はちゃんと目を開けているのだろうか。
隣の西谷の笑い声を聞きながら考える。この子は何がそんなにおもしろいんだ?
急旋回、急上昇。終わったと思った頃にまた急降下。
そのたびに口から悲鳴が飛び出した。
まだなの!?まだ続くの?と心の中で叫ぶ。
やがてスピードが緩み、出発点に帰ってきた。
ガタン、と急停車する車体に、頭が前に揺れる。
終わった...
安堵感から軽い放心状態になる。
意外と短かったな、なんて田中の声が後ろから聞こえた。こんなもんでしょ、と答える縁下の声も。
『はーいお疲れさまでした。お忘れもののないように、ご確認ください』
呑気な声がして安全バーが外れる。押し付けられていた身体がふわりと軽くなった。立ち上がると、少しふらついたが大丈夫そうだ。
うん。生きてる。
「なまえさん、よく頑張りましたね!」
出口から出ると同時に、西谷が飛び付いてきた。頭をわしゃわしゃと撫でられる。
「ちょっと、西谷」
よしよし、と犬のように撫でられて思わず照れてしまう。年下で背が小さい癖に、なんて大きな人なのだろうか。
「よし、この調子でどんどん行こうか」
えへへ、と笑い合う私たちを横目に大地が周りを見渡した。「次は誰の番だ?」
「はぁい、」
手を挙げた人物を見てなまえが、げ、と固まる。
2番目は月島だった。
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよぉ」
月島は意地悪そうに口の端を吊り上げてなまえを見下ろした。「行きましょっか、せんぱい」
正直に言おう。嫌な予感しかしない。