第19章 みんなで遊園地(烏野逆ハー)午前の部
西谷と並んで一番前の座席に乗り込む。
安全バーが下ろされると、逃げ場のない状況に鼓動が早くなる。
あ、だめだなんか怖くなってきた。
係員がロック点検に回っている間、大きく深呼吸をする。ついでに身体を固定する安全バーをガタガタと動かした。
「こんなものに私の命を預けろと...?」
「怖いんすか?」西谷が隣から顔を出した。「手、繋ぎましょうか」
「ごめん、お願いします」
いつもなら軽く流す冗談でも、今回はそれにすらすがりたい。自分よりも体温の高いその手を握ると、はうぅっ、と西谷が声を上げた。
「なまえさんが...俺の手を...」
感激しないで、と言いかけたところに発車のベルが鳴った。心臓がぎゅっと締め付けられる。
『それではみなさん、楽しんで、いってらっしゃーい!』
陽気な係員の声とは裏腹に、沈んだ恐怖をのせてコースターは動き出す。
車体が傾いて、じりじりと上昇を始めた。
うわ、やっぱ乗らなきゃよかったな。
遠くなる地面にぎゅっと目を閉じた。
「いい天気っすね」
突然西谷が話し掛けてきたので「えっ?」と聞き返す。急角度をゆっくりと上昇している今、なまえの視界には青空しか見えない。
「俺、今日みんなで遊びに来れてよかったです!」
「ごめんその話あとにしてもらってもいいかな」
「見てくださいよ、人があんな小さい」
「やめて!!見ないから!」
真下の地面を指差す彼に悲鳴をあげると、「大丈夫っすよ、」とけらけら笑われた。
「俺がついてますから、大丈夫です」
力強い声に、少しだけ安心する。
「...なんか、西谷って本当に頼れる人だね」
彼の隣に座れたことは、ある意味でラッキーだったのかもしれない。
ゴトリと音をたてて車両が頂上に到着する。すぐに落ちるのかと思いきや、平らな道をしばらく進む。
首を伸ばして前方を覗くと、少し向こうでレールが途切れていた。落ちる角度が急すぎて見えないのだ。昔読んだ小説を思い出して背筋が凍る。
「ちょちょちょ、やっぱ無理」
「今更何いってんすk「無理無理無理!」
パニック状態になって西谷の手を強く握る。
その間にも前へと進んでいく車両に、無理、やばい、死ぬ、と喚いた。