第17章 その件については前向きにご検討ください(岩泉一)
「そんな金に困ってんなら、お前の部屋解約してここに住めば?生活費半分になるぞ」
それはつまり同棲、同居、ルームシェアというやつなのだけれど、節約、という便利な言い訳を盾にすれば許されるのではないかと思った。
けれどなまえはしばらく黙った後に、いや、と言った。
「それはさすがに……」と気まずそうに言うので、一気に顔が熱くなる。
やべぇ、断られるとすごいハズい!!
「だ、だよな!?別に付き合ってるわけでもないし、そういうのはないよな!?」
「う、うん……っていうか、はじめくんの彼女にも悪いし」
思考が停止する。誰の何がなんだって?
身体を起こしてなまえをまじまじと見た。
「俺の彼女?」
「うん……」
「それは嫌味か何かか?」
「え?違うよ、たまに夜に声するじゃん」
「声?」
「あれだよ、そのさ……」
なまえはもごもごと言った。「えっちの声」
聞こえてるんだからね!とそっぽを向いた彼女を見て、あぁ、と呆けた声を出した。
「あれは違う」
「違うって何……?え、まさか動画?」
「ちげーよ」
少しむっとして右手側の壁に親指を向けた。「それは俺の部屋じゃなくて隣の部屋だ。あいつら、窓開けてヤるから全部筒抜けなんだよ」
「えっそうなの?」
なまえは慌てたように顔を真っ赤にした。「私、はじめくんの部屋だと思って、この前クイックルワイパーで思いっきり天井突いちゃった!ごめんね」
「やめろよ……まぁ、だいたい聞こえてくる曜日は決まってるみたいだから、俺は夜勤に逃げてんだけどよ」
まさか、なまえの部屋まで聞こえていたのか、と首に手を回して項垂れる。あれは結構精神的にクるから、自分はいいとして彼女は可哀想だ。
「なーんだ、はじめくんじゃなかったのか」
「安心したか?」
「うん、安心しました」
それはどういう意味で?なんて聞けるわけもなく、そうかよ、と愛想なく言ってまた寝転んだ。
「21時に起こしてくれ」
「わかってるよ」
くすくすと笑う声を聞きながら、また目を閉じた。