第17章 その件については前向きにご検討ください(岩泉一)
「それは空腹だ!食べろばか!」
立ち上がって叫ぶと、えっ、えっ、となまえが慌てた。
「でもお金ないし」
「金より命のほうが大事!ほら、もーなんか食え!!」
先程までのムラムラした気持ちもぶっ飛んで、冷蔵庫を漁る。「とりあえずすぐ栄養になるもん。いまバナナしかないからこれ食え、今食え」
なまえにそれを押し付けた。いつだったか、女子がバナナ食べる姿って卑猥だよね、と言った及川の顔が急に思い浮かんだ。「死ね!!」と叫ぶ。
「えぇっ、そこまで罵倒しなくても…」
「今のはお前に言ったんじゃない!」
そう言い放ってベッドに寝転んだ。
「寝る。21時になったら起こしてくれ」
ぶっきらぼうにそう言って、目を閉じた。寝れるわけなんてないけど、なまえと一緒にいることで冷静さを失う自分に嫌気がさしていた。言ってしまえば不貞寝だ。
しばらく目を閉じていたが、しんと静まった部屋が気になって、目を開ける。
「うわっ」
なまえが大きな声を上げた。知らないうちに、彼女が自分の顔を覗きこんでいた。
心臓がバクバクと音を立てる。
「…何、してんだ?」
長い髪の毛が鼻先に当たって擽ったい。覆いかぶさるようにしていたなまえは、ごめんね、と言った。
「はじめくん、怒っちゃったのかと思って」
涙目でそう言うので、はぁ?と声を出した。「別に怒ってねぇよ」
「本当?」
「怒ってない。口が悪いのは元々だ」
「そっか、ならよかった。バナナ、美味しかったよ。ありがとう」
なまえはにっこりと笑ってベッドの縁に腰掛けた。
しばらく彼女に背を向けて寝転んでいたが、「あのさ、」と話し掛けてみる。