第17章 その件については前向きにご検討ください(岩泉一)
ワンルームの床に置かれたテーブルの前に座ると、なまえもぴったりと隣にくっついて膝を伸ばした。
「いま、忙しかった?」
「いや、これから夜勤のバイトがあるから昼寝してたとこだった」
「そっかぁ。起こしちゃってごめんね」
すりすりと甘えるように腕に頭を擦り付けられる。猫のようなその動作に、後頭部がじんと痺れた。
なぁ、それ他の男の部屋でもやってんのか?
言い掛けて言葉を飲み込む。
それとも、俺を兄貴の代わりか何かだと思ってんの?
恐る恐る頭を撫でてみる。柔らかくて細い髪の毛は、絡まることなく指先を包んだ。実家で飼っている猫にするみたいに、耳の後ろを撫でてやると、なまえはくすぐったそうに目を細めた。それを見て、あー、やばいな、と思う。
すっげーキスしたい。
手を出して良いのだろうか。お互い大学生なのだし、そこんとこは自己責任で判断するしかない。
そもそも男の部屋に単身乗り込んでくること自体がもう了承しているということなのだろうか。でももし、彼女の心にあるのが信頼だけだったとしたら?
突然なまえが、むむっ、と小さく声を上げたので、所在なく動いていた自分の右手はびくりと跳ねた。
「ど、どうした?」
「なんかね、足が痺れるの」
「足?」
「うん。お昼あたりから」
そう言ってショートパンツから伸びる白い足を指さした。「病気かなぁ」
「病気かぁ?」
同じようにぼんやりと返す。「変なものでも食ったんじゃねぇの」
「そうかなぁ。今日はじゃがりこしか食べてないけど」
「他は?食べてないのか?」
「うん……でも大丈夫だよ、バイトで動いてればそんな気にならないし」
「……」
自分の表情が固まるのを感じた。ひくりと眉を動かして彼女に尋ねる。「…昨日は?」
「昨日?何食べたっけ」
うーん、となまえは唇に指を当ててぽつりと言った。「アイスの実、かな」
頭の中で何かが切れた。