第16章 願いましては(赤葦京治)
【それからさらに2日前】
昼休み
チャイムが鳴ってから15分後
赤葦には楽しみにしていることがある。
『皆さんこんにちは。4月10日火曜日。お昼の放送を始めます』
スピーカーから流れる澄んだ声に耳を傾けながら、パンの包装を破いた。
木兎さんのいない昼休みは、なんて穏やかなんだろう。
『本日4月10日は、女性の日と言われています』
喧しい先輩が来るだけで、放送が聞こえなくなってしまうのだ。
『今から約70年前の今日、戦後初の総選挙で、初めて婦人参政権が行使され---------』
川のせせらぎのように煌めきながら流れていくこの声を、赤葦は1年生の頃から気に入っていた。
今年の1学期は、毎週火曜日が彼女の当番らしい。
毎日の練習で疲れた身体が、彼女の声で癒される気がする。
表情の変化が乏しいとよく言われる赤葦でも、この時間になると少しそわそわと口の端が緩んでしまう。
やがてその綺麗な声は、リクエストの曲を告げた。
「あーかーあーしー!!」
曲が流れると同時に、教室に木兎が飛び込んでくる。
良いタイミングというべきか、言わざるべきか。
赤葦は少しだけむっとして、「どうかしましたか」と聞いた。