第16章 願いましては(赤葦京治)
「うちの赤葦はすごいからな」
うんうん、と頷く木兎に、どんな人なの?と聞いてみる。
「セッターだよ。なんかこう、むすっとした感じの」
「あーそうなの」
なまえは棒読みで答えた。「あんたに聞いた私が馬鹿だったわ」
「どういう意味だよ、それ」
木兎は一瞬だけむっとした顔をして、それから、まぁいいや、といつものように笑った。「提出、よろしくな」
自分の席に戻っていく木兎を見送ってから、ノートに視線を落とした。
葦、と書かれた文字を見る。その上下の文字を足して、彼の名前を完成させてみる。
どうしてだろうか、名前しか知らないのに、何故か彼のことが無性に気になる。
どんな人なのだろう。
どんな声で話すのだろう。
どんな顔をして、どんなふうに笑うのだろうか。
こんな綺麗な字を書く人が、この学校に本当に存在するのだろうか。
気づけば頭の中には、顔も知らない人のことでいっぱいになっていた。
これは恋心なのか?と自問自答して苦笑する。まるで青春だな。